中国農業部、農民増収など畜産業の発展促進を声明


畜産業は農村経済の大黒柱に成長するも、最近はマイナス成長も

 中国農業部は6月2日、中央政府などの指導者の共通意識の徹底を図るため、畜産業の安定的な発展促進に関する声明を発表した。中国の畜産業は、2001〜2005年の第10次5カ年計画期間中に大きく成長し、中国側の発表によると、畜産生産額は1兆3千億元(約19兆円:1元=14.5円)を超え、農業総生産額の35%を占め、農民の大きな増収源として国内の農村経済を支えている。

  しかし、需要増加伸び率の鈍化や家畜・家きん感染症の影響などから、今年に入って食鳥や卵、牛乳・乳製品など主要な畜産物価格が軒並み下落する一方、生産資材の値上がりなどでコストがかさみ、1〜4月期における農民の畜産業による現金収入は、いまだかつてないマイナス成長となった。中国共産党や国務院(内閣に相当)首脳は事態を重視し、さまざまな対策を指示する一方、指示内容の実行を徹底し、近代的な畜産業発展の加速と農民の増収、社会主義に根ざした新たな農村建設の推進を目指すため、今回の声明発表に至ったものである。


畜産業の発展意義の認識や防疫強化など9項目を声明

 今回の声明は、畜産業の発展意義の認識や基本構想の明確化、防疫強化、正確な情報提供による畜産物消費の的確な誘導など、以下の9項目からなっている。

  1 畜産業の安定的な発展に関する重要な意義の認識

 畜産業の発展は農業近代化の重要な指標であり、社会主義に立脚した新たな農村建設推進にとって重大な意味を持っている。畜産業の発展は農民の増収に大きく貢献し、関連産業の発展にも寄与する。

  2 畜産業発展の基本構想の明確化

 畜産業の構造改善、畜産物の品質および生産効率の向上、インフラ強化、畜産業に対する支援強化政策の策定、近代的な畜産業の産業としての体系構築などにより、畜産業の総合的な生産能力を高め、畜産物の品質および環境に対する安全性を保証し、農民の増収と社会主義に立脚した新たな農村建設に貢献する。

  3 畜産業発展計画策定と実施の加速

 第11次5カ年計画(2006〜2010年)に則した畜産業発展計画を策定し、重点事項を示して発展の方向性を明確化する。また、それぞれの地区ごとに異なる資源、技術、市場および産業の発展状況などの各要素を最適に組み合わせ、地区ごとの条件により乳牛地帯、養豚地帯、肉牛地帯および肉羊地帯などの建設を推進する。

  4 畜産業の成長様式の転換促進

 適度な飼養規模拡大による畜産業の発展と品質および利益率の向上、生態環境の保護、資源の有効利用などにより、環境共存型の畜産業の発展を図る。また、科学的な知見に根ざした畜産飼養技術の確立により、畜産技術の進歩・向上に資する。

  5 優良品種の普及

 優良品種の普及計画を科学的に策定し、優良品種資源の保護と研究を強化するとともに、それぞれの地区に適応した育種と優良品種の普及により、家畜・家きんに占める優良品種の割合を高める(注1)。

  (注1)法的には、本年7月1日から施行される改正畜牧法に基づき措置。具体的な運用については、2006年6月2日付け農業部公告第662号(国家級家畜家きん遺伝資源保護名簿)、6月5日付け農業部令第64号(家畜家きん遺伝資源保有施設・保護区および遺伝子保管施設管理規則)、同第65号(家畜家きん新品種審査および遺伝資源鑑定規則)および同第66号(優良種畜登記規則)などに規定されている。

  6 適切な防疫体制の強化

 鳥インフルエンザや口蹄疫、豚の連鎖球菌症など重大疾病の防御を強化し、各地区の家畜・家きん疾病清浄化方針を策定する。重大疾病についてはワクチン接種など免疫措置を強制化し、各地区の鳥インフルエンザおよび口蹄疫の免疫率を100%にまで高めるよう努力する。また、重大疾病の監視と予報・警報システムを強化し、突発的な疾病発生に際し、迅速に対応できるような体制を完備する。

  7 生産者と畜産関連企業の利益連結のための体制整備

 生産者協会と畜産関連企業が協力・連携して農業合作経済組織(注2)を築き、農民の組織化の程度を高め、企業や農業合作経済組織および生産者が共同してリスクを負い、そして共に利益を享受できるような体制を構築する。また、畜産物の加工・販売に農民を関与させて利益分配を図り、農業の産業化を図るとともに、企業の生産・経営行為の一層の規範化により、農民の利益確保を図る。

  (注2)2003年3月1日施行の改正農業法により合法的地位が与えられたが、所管官庁や登記機関が明記されていないため、対応はケースバイケースであり、具体的な経済活動の保障や紛争解決などに関する規定も不明確であるといわれる。また、その名称や分類、定義なども、行政機関や研究者などの間で統一されていない現状にあるとされる。本年3月の全国人民代表者大会(全人代)では、「農業合作経済組織法」の早期制定が建議され、6月24日の全人代常務委員会で草案の審議が開始された。

  8 正確な情報提供による畜産物消費の的確な誘導

 各種メディアを利用し、畜産業の発展について宣伝・報道する。特に、重大な家畜・家きん疾病の防御措置や発生状況についての公表方法を改善し、公衆衛生に関する知識を広め、いたずらに社会や消費者の不安をあおるような報道を防止する。そして、正確な情報提供により畜産物の消費を的確に誘導し、消費水準を高め、畜産業の発展のために良好な世論づくりをする。

  9 畜産業発展のための組織指導の強化

 各級政府の畜産主管部門は、計画・指導・協調・監督・管理およびサービス機能を存分に発揮することが求められている。各畜産主管部門は、調査研究の強化によって畜産業の形成分析を行い、最新の状況を理解・把握し、内在する重大な問題を解決するとともに、積極的に地方の党委員会や政府に畜産の発展状況を報告し、政策や施策の材料を提供すべきである。また、関係部門とも協調し、畜産業に対する資金投入を増やす必要がある。そして、サービス意識を強め、各農家と深い関係を築き、農民を良好な勤労態度へと導くことにより、畜産業の発展と持続的な増収を実現し、社会主義に基づく新たな農村建設に貢献すべきである。


底流には三農問題への解決意識

 今回の声明は、直接的には、これまでにない畜産業収入のマイナス成長を踏まえたものであるが、その底流には、農業・農村・農民のいわゆる三農問題の解決という重要課題があると思われる。

  中国では、2005年3月の全人代で、2006年を初年度とする第11次5カ年計画(2006〜2010年)が採択され、「社会主義新農村建設」をキーワードに、三農問題の解決が最大の戦略的任務として位置付けられた。これは「三農問題の解決」→「農村市場の活性化」→「農民の所得向上」→「内需拡大」→「国内産業が成長」→「国内産業の国際競争力も向上」という考えに基づくものであり、今年3月の全人代においても、三農問題の最重点化が最大の柱とされた(「畜産の情報」海外編2006年4月号中国トピックス参照)。

  また、国務院常務委員会は6月14日、国内経済の現状などについて分析し、農業・農村支援の強化と生産力向上による農民所得の増加、農地の無秩序な転用の防止、農業分野に対する融資の強化などに力を入れていく方針を確認した。

  しかし、一方では、これまでの中央政府の減税政策により、財政難に陥る地方政府も出ている。そして、こうした地方政府が、公共の利益という名目で農民から土地を収用し、不動産業者などに高額で売却するなどのケースも報告されており、このことが農村部における失業者の増加と社会不安を招いているといわれており、三農問題の解決に向けては、険しい道のりが続きそうである。


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