品質向上を目指すパタゴニア地方の羊毛農家



ひとくちMemo

 アルゼンチンの牧羊産業は羊毛から始まり、一時は輸出国として高い地位を占めていた。しかし、豪州、ニュージーランドとの競争において、アルゼンチン産羊毛は品質面などでの国際的な評価が低かったため、遅れを取ってきた。そこで、95年にアルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)は羊毛品質向上プログラム(Prolana)を策定し、国際的に高い評価を得ることを目指した。Prolanaには10州が加入しており、各州の農務機関がSAGPyAとの協定により実施している。主な内容は、家畜がより楽な姿勢で刈られる豪州、ニュージーランドの毛刈りシステムの採用、羊毛の選別や刈り取った羊毛の包装技術の向上などとなっており、農家のプログラム参加は任意である。

 なお、牧羊産業はパタゴニア地域が主で、全飼養頭数の約6割を占める809万頭が飼養されている。パンパ地域と比べ気候的には不利であるが、羊毛が生鮮品ではなく、流通が容易であることがその有利性を高めているとされる。

 また、生産される羊毛の9割が輸出に向けられ、ドイツ、イタリアなどEUが主な輸出先である。


 04/05年度の羊毛生産量は4万3,043トン、このうちProlana加入分は約5割の2万2,117トンで全体に占める割合は年々増加している。また、99/00年度には羊毛農家6,637戸のうち、加入農家は473戸だったが、04/05年度には6,339戸のうち1,860戸となっている。

 今回訪れたチュブト州ではProlana加入農家の3分の1が、母羊の出産前である7〜10月の冬期に毛刈りを行う。この理由として(1)春先(12〜1月)は強風が吹くことが多く、毛がほこりを含み、使える羊毛の割合が下がる、(2)毛刈り後の出産により、子羊が乳を探しやすい、(3)身軽になりえさをよく食べられるようになる−などが挙げられている。出産前の毛刈りは、比較的穏やかな北部を中心に増えている。

 訪問先のProlana加入農家。オーナーは近隣に8農場を有し、すべて羊毛用のメリノー種で約6万頭を飼養。この農場では18,500頭を飼養。



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 毛刈りは、農家が毛刈り会社と契約し1年に1回実施する。会社は炊事係を含む20人程度のチームを農場へ派遣し、天候や対象頭数にもよるが1農場に10〜20日間滞在し、毛刈り作業に従事する。作業は午前6時頃から開始し、2時間15分を1ターム、間に45分の休憩を挟み、午後6時ごろまで続ける。作業の流れは、(1)1ヵ所に集めた羊を1頭ずつ、電動バリカンの前に運ぶ→(2)毛刈り(1頭に要する時間は3〜4分)→(3)刈り取った羊毛をまとめ、選別台に運ぶ→(4)きれいな部分、汚れた部分を選別→(5)品質による選別を行い袋詰め→(6)圧縮して包装となっている。ここでは8人の職人が毛刈りを担当し、1人が1日およそ100頭(熟練者は130頭)を扱う。1頭から平均5キログラムの羊毛が取れ、羊は平均5年で更新される。

 Prolanaから派遣されたインストラクター((2)’中央の紺色の作業服姿)がProlanaが推奨する毛刈りの方法を順守しているか、農家を回って指導する。


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 毛刈りのチームは食料や寝袋などを持参し、大型バスで移動する。車内は各人の荷物を置くだけで全員が休めるほどのスペースはないため、この時期、気温はマイナスにも下がるが、この農場では野宿となる。(なお、牧場によっては、チーム専用の住居がある場合もある。)職人たちの食事はチーム専属の賄いが用意する。農場の一角のレンガを積み上げただけの囲いの中で煮炊きを行う。農家から提供される羊肉が主食。この日の夕食は羊肉のギソ(煮込み料理)

 はさみを使用しProlanaが推奨する2段階(汚れた部分→きれいな部分)方式の毛刈りを採用している農家。飼養頭数は8千頭。はさみのメリットは、毛が少し残るので、親の体調を維持できる、電動に比べゆっくりなので、次の作業に移るタイミングが計りやすい、汚れた部分との選別がしっかりできるので品質の評価も高いことなど。また、作業賃は電動バリカンの場合は1頭当たり2.60〜2.70ペソ(約100円:1ペソ=40円)だが、はさみの場合は2割増となる。




 中央に囲いを配し、おなか回りなどの汚れた部分とその他背中などきれいな部分の毛刈り場を分断している。第1段階の汚れた部分のカット終了後、いったん囲いに入れ、反対側の扉から羊を出し、第2段階のきれいな部分の毛刈りを行う。カットに要する時間は1頭当たりおよそ6分。

 この農家では前後肢の毛は刈らず、また全体に毛が少し残るため、1頭から取れる羊毛は約4キログラム。職人それぞれが刈った頭数は、(1)汚れた部分担当は缶の中にコインを入れ、(2)きれいな部分担当は、毛刈りの済んだ羊を後ろの出口からそれぞれの柵に入れ、1ターム終了ごとにカウントしている。

 機械刈りのような騒音がなく、作業場はのどかな雰囲気が漂う。


 文化包丁を2本合わせたようなはさみは重さ約500グラム程度。1頭終了ごとに職人自身が刃を研ぐ。

(ブエノスアイレス駐在員事務所 横打 友恵、 犬塚 明伸)

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