アルゼンチン、180日間の牛肉輸出停止を決定


国内の牛肉価格引き下げが目的

 アルゼンチン政府は3月13日、向こう180日間にわたる牛肉の輸出停止を定めた経済生産省決議第114/2006号(3月8日付け)を官報に公布し、掲載の翌日から発効した。決議では、その根拠説明に、「牛肉価格に異例でかつ不当な価格上昇が見られ、この価格上昇の主な要因の一つが国外の需要に関係していること」を挙げている。

 この中で、EU向け高級生鮮牛肉(通称ヒルトン枠)および二国間協定によるものについては対象外とするとしている。また、同決議発効時点において、取消不能信用状が発行、または全額ないし一部が支払済みの製品の輸出には適用されない。その他の牛肉製品が全面的に国内市場に回されることになるが、2005年には輸出量77万トン(枝肉ベース)、輸出額12億9千万ドル(約1千535億円:1ドル=119円)の実績を上げたアルゼンチンの牛肉輸出にとって大きな打撃となることは避けられない。

 なお、政府の試算では、輸出停止により約60万トンが、国民の購買力に応じた消費に向けられるとしている。

 国家統計局(INDEC)によると、2006年2月の骨付きバラの1キログラム当たり小売価格は前年同月比21.8%高、また前月比0.4%高、ひき肉はそれぞれ同23.4%高、2.0%高となった。


輸出税の引き上げ対象の拡大も決定

 また、政府はこれまでは骨なし牛肉(生鮮および冷蔵、冷凍)のみが対象であった輸出税の5%から15%への引き上げ(2005年11月18日付け経済生産省決議第653/2005号)を同省決議第113/2006号(3月8日付け)により、枝肉、骨付き牛肉、調製または保存処理した牛肉・くず肉・血(ソーセージ類を除く)、牛肉のエキスおよびジュースも引き上げの対象とすることも決定した。

 これらの措置を公表したミチェリ経済生産大臣は「政府の意図は、国内の基本食料の一つである牛肉の国内市場向け供給量を需要量に合わせることである」と説明し、さらに「今後、国内食肉市場を日々監視した上で、採用した措置に対して価格の展開や需要動向にどのような反応が出るかを把握し、今回の措置の採用期間内に輸出再開について判断することになる」としている。

 この発言後、経済生産省は家畜の価格形成部門の監視を強化することを決定した。国家競争擁護委員会(CNDC)が家畜委託販売業者、スーパーマーケットなどによる寡占取引がないかどうかを監視するため、リニエルス市場に弁護士とエコノミスト10名で構成される検査官チームを常駐させる。価格取り決めに当たり、不正な操作があった場合は、罰金その他の罰則の適用を提言することとなっている。


業界団体は対応に苦慮

 輸出停止の決定を受け、パッカー部門の約8割の企業を傘下に収めるアルゼンチン牛肉輸出連合(ABC)では、工場閉鎖と従業員の解雇を余儀なくされるのではとの懸念を抱いている。また、同連合の会長で、国内最大手のスイフト社のフーネス社長は現地紙のインタビューに対し、「政府が雇用と国外へのイメージを勘案せずにこのような措置に踏み切ったことは理解できない」と語っている。

 一方、アルゼンチン農牧協会(SRA)は3月16日に畜産部門への投資を増大させることにより、牛肉生産量の向上を図るべきであるとのアルゼンチン畜産戦略計画を発表した。この計画は、現在約5,500万頭といわれる肉用牛飼養頭数を10年間で6,700万頭に増加させるとともに、1頭当たり枝肉重量の40キログラム増加(参考:現状の約20%増加に相当)を図ることを目的としており、この達成のために、畜産関係者に向けて、

(1)高品質な飼料の給与を増加させること
(2)分娩率、受胎率などの繁殖能力を向上させていくこと
(3)家畜改良の専門家の育成を図ること
(4)繁殖雌牛導入に当たり融資制度を設けること
(5)家畜福祉の向上を図ること

など計19の項目についての実行を提言している。


ブラジルは牛肉輸出の拡大を期待

 これまでアルゼンチンは、主にロシアやチリなどに向け牛肉を輸出(2004年63万トン、2005年77万トン(枝肉ベース))してきたが、これらの国ではほかの供給先を探すため、2005年10月の口蹄疫の発生により停止しているブラジルからの牛肉輸入の再開を早急に検討するとみられている。

 ブラジル全国農業連盟(CNA)の常設肉用牛フォーラムのノゲイラ委員長は、今回のアルゼンチンの牛肉輸出停止措置を「アルゼンチンがブラジルに贈った最高のプレゼント」であるとして、アルゼンチンがこれまで輸出してきた牛肉の需要に応じるため、牛肉輸出の拡大に向けての態勢を急ぎ整えることが必要であると呼びかけている。


アルゼンチンの牛肉消費の減退はみられず

 このような状況の中で、アルゼンチンのキルチネル大統領は牛肉価格が下がるまで買い控えるようにと国民に対し呼び掛けるとともに、パリジ大統領府長官はアルゼンチン行政府の職員に対して、牛肉の購入を控える旨の事務連絡を行った。

 しかしながら、これら政府の動きに対するアルゼンチン国民の反応は低く、現地報道などによると、牛肉の売れ行きは減少していないようであり、年間で1人当たり約61キログラム(日本は約5.6キログラム)の牛肉を消費する食習慣はすぐに変わるものではないようである。


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