広がりをみせる1日1回(ONCE-A-DAY)搾乳 ● NZ


5年前に40戸でスタート、現在は約500戸にまで拡大

 オセアニアの酪農生産国ニュージーランド(NZ)では、高水準で推移する乳製品の国際市場価格を背景に、生乳生産の拡大が期待されているが、このような中、酪農の生産現場では、従来の1日2回の搾乳から1日1回(ONCE-A-DAY)の搾乳へと、酪農スタイルを変化させる酪農家が現れている。

 この1日1回の搾乳方法は、今から5年ほど前に約40戸の酪農家で始まったのが最初とされ、その後、徐々に広がりをみせ、3年前には200戸台に、そして現在は約500戸と、NZ酪農家全体の4%程度まで拡大している。

 酪農家にとって、この搾乳方法を取り入れる最大のメリットは、労働時間の大幅な短縮にある。NZの酪農は、そのほとんどが放牧型酪農であるため、日本などとの比較では酪農家1人当たりの作業時間がおおむね短いとされるが、それでも、1日2回の搾乳や放牧場の管理など、長時間の作業は、酪農家への負担となるばかりでなく、酪農後継者の育成にとっても大きな足かせとなっている。


搾乳時間は1日3時間に短縮、乳量の低下を増頭でカバー

 1日1回搾乳の実施による酪農家の搾乳時間は、1日平均で約3時間程度となり、例えば、朝、搾乳を行った場合、午前中の早い時間で作業が終了し、残りの時間は放牧場の管理などに充てるなど、酪農に余力が生じている。また、労働時間の短縮で地域社会との結び付きが強くなるなど、酪農家にとっては生活面でも大きなゆとりが生まれている。

 一方、1日1回搾乳による乳牛1頭当たりの泌乳量の減少は、この方式を導入した酪農家にとって避けられない事実である。実際の減少量は、気象条件などの地域差も踏まえた上で1戸当たり平均1〜2割程度とみられている。ただし、搾乳回数が減少したことで、乳牛1頭当たりに必要とされる草地面積も狭まったことから、この方法を取り入れた多くの酪農家では、搾乳量の減少を補うため飼養頭数を増加させている。この結果、年間を通した生乳生産量は、この増頭により1日2回の搾乳時とほぼ同水準になる酪農家もでてきている。ある酪農家では、最盛期の乳量が1日1頭当たり30キログラムに達するなど、同じく酪農生産国である豪州の酪農と比べて何らそん色のない事例も報告されている。


求められる乳牛の選別、初期投資や気象条件も考慮

 1日1回の搾乳が乳牛にもたらすメリットとしては、搾乳回数が減ることで放牧地からの移動も含めて搾乳に対するストレスが大きく低下し、乳牛自体の“消耗”が緩和されることが挙げられる。この結果、体細胞数の減少といった乳質向上が図られることや、乳牛のとうた頭数も減ることで、酪農家にとっては、資産価値が上昇(乳牛頭数や子牛頭数の増加)するなどの恩恵も現れている。このように、1日1回搾乳は酪農家や乳牛にとって大きなメリットがあるとされるが、反面、この方法の導入に当たっては、事前にこの方法に適した乳牛の選別を行う必要があり、また、一定の頭数を確保するための初期投資も求められる。さらに、放牧主体のNZでは、気象条件なども考慮する必要があるとされている。

 しかし、この方法を取り入れた酪農家の多くが、万一、1日1回の搾乳方法で失敗しても、また、もとの1日2回搾乳に戻ればよいとの考えを持って導入したとしており、このことが拡大の下地につながっているようだ。


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