豪州最大の牛肉処理業者の経営権を移譲
米国では5月29日、ブラジルに本社を置く南米最大の食肉処理業者であるJBS社が、米国の大手食肉処理・食肉加工製造会社であるスイフト社を傘下に収めることが公表された(「海外駐在員情報」平成19年6月5日号参照)。この結果、スイフト社の子会社であり、豪州最大の牛肉処理業者であるオーストラリア・ミート・ホールディングス(AMH)社の経営権がJBS社に委譲されることとなった。豪州関連業界では、世界最大の牛肉輸出国であり、輸出競合国であるブラジルからの資本参入に対し、一部に警戒感を募らせる声があるものの、おおむね肯定的な反応が見られる。
AMH社はクイーンズランド(QLD)州に本部を置き、4カ所の牛肉処理工場(いずれもQLD州)および4カ所の肉牛フィードロット(QLD州2カ所、ニューサウスウェールズ州2カ所)を所有しており、年間と畜頭数は140万頭、フィードロット収納能力は10万頭である。また、牛肉輸出量は、豪州全体の約26%、日本向け輸出量の約30%を占めている。AMHの経営権は、94年に米国コナグラ社に移譲されて以来、海外企業に委ねられており、5年前からスイフト社が経営権を保有している。
牛肉業界の競争力向上などに期待。一部では競合国のアジア市場進出を懸念
QLD州の生産者からは、今回のAMHの経営権委譲について歓迎するコメントが報道されている。新たな経営者により、肉牛取引の競合が高まるとともに牛取引頭数が増加することなどを期待している。
食肉業界団体である豪州食肉産業協議会(AMIC)会長は、今回の経営権委譲を歓迎しており、豪州は世界で最も安全でクリーンな食肉の生産国として知られ、新たな会社においてもこうした体制の下での経営が必要であるとしている。また、今後、豪州牛肉産業の競争激化につながるのか、その影響を予測することは難しいとしがらも、すでに豪州食肉業界は厳しい競争下にあり、大きな問題ではないともしている。
また、肉牛生産者団体である豪州牛肉生産者協議会(CCA)会長も、今回の経営権委譲について、その詳細はまだ分からないとしながらも豪州牛肉産業にとって歓迎すべきことであるとしている。豪州食肉業界にとって、将来的な地位の維持および向上を図るためには、特に肉牛の生産段階における強い競争が重要である。AMHは、すでに外国企業による経営が行われており、これまでの経営方針は変わらないものと期待する。また、豪州肉牛業界にとっては、これまでの業界の体制やプログラムに対する長期的な協力体制の維持が重要であるとしている。
一方、大手食肉加工業者であるティーズ・ホールディング社代表は、今回のJBS社への経営委譲について、豪州肉牛の優良遺伝子、家畜飼養技術、フィードロット経営技術および食肉処理技術などの知的財産が牛肉輸出競合国であるブラジルに流出する恐れがあることについて警戒感を見せている。また、これまで長年AMH社が培ってきた日本や韓国といったアジア市場との関係を獲得すると同時に、これらの市場が将来的にブラジル産牛肉輸出を解禁した場合、その足掛かりになると指摘している。
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