米国の非公開投資会社であるHMキャピタル・パートナーズ社は5月29日、同社の子会社で米国の大手食肉処理・食肉加工品製造業者であるスイフト社を、ブラジルに本社を置くJ&FパーティシペイションズS.A.社に総額約14億ドル(1,736億円:1ドル=124円)で売却することを公表した。なお、J&F社は、南米最大の食肉処理業者であるJBS社の株式を77%保有する同社の親会社であり、スイフト社の買収により、同社は世界最大の食肉処理業者の地位を得ることになるとしている。
スイフト社は円滑な経営体制の移行を強調
スイフト社は、米国内で牛肉・豚肉の処理加工や食肉加工品の製造販売を行うほか、豪州最大の牛肉処理業者であるAMH社も所有する世界有数の食肉流通企業であり、年間総売上高は90億ドル(1兆1,160億円)を超える。また、同社は、米国における肥育牛処理頭数の約16%、肉豚処理頭数の約11%の市場シェアを保有しており、牛肉部門ではタイソン社、カーギル社に次ぎ、また、豚肉部門ではスミスフィールド社、タイソン社に次ぎ、それぞれ業界第三位の地位を占めている。
一方、同社の収益は、ここ数年にわたる牛肉輸出市場の不振に加え、昨年12月に入管当局から食肉処理場の査察を受けて多くの従業員が逮捕された影響もあり、特に国内牛肉部門を中心に不振が続いていた。このため、同社は本年1月の経営者会議で企業売却も含めた経営戦略の検討を行うことを決定していた。
今回の買収に関し、スイフト社のサム・ロビト社長兼最高責任者は、「私やスイフトの経営に携わる仲間達にとって最も重要なのは、スイフトがこれまでと同様に、強い、安定した、消費者重視の企業で有り続けることである。J&Fグループに加わって世界最大の牛肉・豚肉処理業者となり、スイフトはさらに強固になるが、このことは、われわれの顧客、われわれの仕入れ先、われわれの社員にとってよい知らせである」とした上で、新たな資本構造への円滑な移行に向け、前向きに取り組む意向を示している。
JBS社はアジア市場への参入機会の確保を高く評価
一方、JBS社はブラジルに23カ所、アルゼンチンに6カ所の食肉処理場を持つ南米最大の食肉処理業者であり、年間総売上高18億ドル(2,232億円)、牛と畜頭数は340万頭を上回る(スイフト社の牛と畜頭数は約450万頭)。また、口蹄疫非清浄地域の市場を中心に、牛肉の輸出についてはすでに世界有数の水準にあるとされる。
JBS社のジョスリー・メンドンチャ・バティスタ最高経営責任者は、今回の買収について、「スイフト社を入手できたこと、そして、世界最大の牛肉・豚肉処理企業を作る機会を得られたことに興奮している。これはわれわれが世界市場で地歩を築く上での大きな第一歩であるが、さらに重要なことは、スイフト社を通じて太平洋地域の市場への参入機会が得られるということである」と述べた。また、スイフト社のみならず業界全体にとって極めて厳しい状況の中で、これまで同社の経営陣が行ってきた努力をたたえるとともに、「旧経営陣、スイフトの多くの上級顧客、2万人に上る有能な職員のおかげで、スイフトは、現在も、巨大な売上高と成長の可能性を持ったすばらしい企業であると考えている」とした。
米国の食肉市場に与える影響は軽微か
本年1月にスイフト社の売却が正式に検討され始めてから、業界内では、複数の米国の主要食肉処理業者が同社の買収に興味を示しているとの情報が流れ、どの業者がいくらぐらいの価格で落札するのかに、多くの関心が持たれていた。
今回、米国内の企業ではなく、これまで米国内に生産拠点を持たなかった外国企業がスイフト社を買収する結果となったが、このことにより、生産効率の引き上げを目的とした既存の食肉処理場(牛肉4カ所、豚肉3カ所)の統合や閉鎖が行われる可能性は低くなったとの見方が一般的であり、短期的には米国の生産者にとって朗報であろう。
他方、長期的に見れば、JBS社がスイフト社のチャンネルを通じてアジア市場における食肉販売を開始することの意味は大きい。将来的に口蹄疫の清浄化が進展し、南米産牛肉がアジア市場に参入できるようになった際に、事前にアジア市場への供給ノウハウを持っていることは、大きなアドバンテージとなる。スイフト社の買収により、JBS社が南米産牛肉輸出の「事前学習」の機会を得たことは、世界の牛肉市場にとって大きな出来事になってくるものと考えられる。
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