イスラム教徒自治区でのハラル商品開発の取り組み ●フィリピン


ハラル食品承認機関を設立

 フィリピンの人口は、約8,300万人でキリスト教徒が9割以上を占めている。一方、イスラム教徒は約5%程度と言われており、歴史的な経緯からミンダナオ島西部の南ラオナ州、マギンダナオ州のほか、マレーシア領ボルネオ島に近いスルー諸島に多数が居住している。同地域は住民投票の結果、1989年にイスラム教徒自治区(ARMM)となっている。

 同自治区政府は10月、イスラム教徒向けハラル食品の生産振興を図るため、海外からの資金援助を活用して、モスリム ミンダナオ ハラル承認委員会(MMHCBI)を設立するとともにハラル食品の認可に係るガイドラインなどを制定した。MMHCBIはハラル食品の証明を行うほか、ハラル食品製造業者の育成や輸出業者に対する支援などを実施するとしている。MMHCBIの設立に当たっては、マレーシアにおけるハラル承認制度を参考にしており、同制度などの習得のためマレーシアイスラム教振興局(JAKIM)から講師を招へいしている。


中東地域へ鶏肉などの輸出を計画

 現在、ミンダナオ地域において貧困対策やルソン地域などとの地域格差の是正を目的とした農業 農村開発が進められており、同地域におけるアグリビジネスの振興なども課題となっている。自治区政府としても、ハラル食品の生産振興などにより地域経済の活性化を図る意向であり、そのためには市場が限定された国内だけでなく規模の大きな中東などのイスラム圏へ向けた輸出が不可欠との認識を示している。

 従来、同国にはハラル証明機関がなかったため、イスラム圏へ向けた家きんなどの輸出振興に、大きな制約となっていた。自治区政府は、MMHCBIの設立により、中東をはじめEUに居住しているイスラム教徒向けのハラル鶏肉調製品などの輸出に取り組みたいとしており、フィリピン農務省および貿易産業省も支援する方針とされる。ちなみに、2005年のARMM地域における鶏肉生産量(生体重)は約8千トンとなっており、これは同国生産量約124万トンの約0.6%となっている。

 主に中東市場向けハラル食品の製造に関しては、アセアン地域では既にタイで行われているものの、フィリピンにおいてもMMHCBIの設立に伴いハラル鶏肉調製品の開発事業が進行中とされている。特に、中東向けのハラル鶏肉調製品などについては、2007年当初にも輸出が開始される見込みであり、イラン政府はフィリピン産ハラル鶏肉調製品などの受入れを表明している。また、マレーシアやブルネイなどもフィリピン産ハラル食品に興味を示しており、フィリピンの食品企業数社がブルネイとの合同事業を開始している。


各国が注目するハラル市場

 アセアン地域には、イスラム圏最大の人口を有するインドネシアやイスラム教を国教としているマレーシアなどがあり、同地域におけるイスラム教徒数はアセアン総人口の約4割に当たる2億2,000万人とされている。また、全世界のイスラム教徒数は約18億人と言われており、イスラム教徒向けハラル食品市場の規模は、約1,500億ドル(17兆5,500億円:1ドル=117円)とされている。

 この巨大なハラル食品市場に対しては、フィリピン以外のアセアン各国も興味を示しており、特にマレーシアではイスラム教国としての優位性を生かした計画を作成している。同国では、中期国家経済開発計画である第9次マレーシアプラン(9MP)や第3次産業基本計画(3IMP)などにおいて、ハラル事業の振興を重点分野として位置付けており、ハラル食品の生産やロゴの承認などハラル事業の育成を図るとともに国際的なハラルハブを目指すとしている。また、タイも「世界の台所」として食品輸出の振興を図るなど、アセアン各国によるハラル製品の開発と輸出に向けた取り組みは競争の度合いが加速している。


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