農業・農村の発展に向け、2006年の活動を総括
中国国務院(内閣に相当:注1)と中国共産党中央委員会(以下「党中委」)は2006年12月22、23日、北京で中央農村工作会議を開催した。
これに先立つ12月5〜7日、国務院と党中委は中央経済工作会議を開催、2007年は、これまで成長一辺倒だった経済政策を見直し、財政・金融および産業政策などを通じてマクロ経済の引き締めを図り、国内総生産(GDP)の成長率を1けた台(香港紙などによると8%前後とされる)に抑えることなどが確認された。また、2007年における経済活動の主要任務として、農業関係では、農民の消費拡大や農村経済の発展に重点を置き、社会主義新農村の建設を着実に推進することなどが盛り込まれた。
これを受けて開催された中央農村工作会議では、2006年12月初旬に中国共産党四川省委員会書記に異動した杜青林前農業部長(兼農業部共産党組書記)に代わって農業部共産党組書記に就任したばかりの孫政才氏(43歳:観測筋では、近く農業部長への就任を予想)が、2006年の農業・農村活動の総括と情勢分析を行った。
これによると、(1)2006年の食糧生産は4億9千万トンと見込まれ、3年連続で増加した、(2)農民の平均純収入も前年比6%以上の増加が見込まれ、同じく3年連続で6%を上回る増加となった、(3)野菜などの園芸作物、綿花、畜産物、水産物などの生産量はいずれも増加が見込まれ、全国の機械化水準は38%に達し、郷鎮企業の収入見込みも前年比13.2%増の5億7千5百万元(約87億4千万円:1元=15.2円)に達するなど、農村部の各産業は互いに協調しながら確実な発展を遂げている、(4)農業の産業的経営が着実に進展し、鳥インフルエンザなど重大な動物感染症の防疫対策も順調に遂行されたほか、農産物の品質・安全性も確実にレベルアップするなど、中国の農業・農村経済は、質的な面でも着実な成長を遂げているなどとされる。
注1 国務院は国務院総理(首相)が主宰し、若干名の国務院副総理(副首相)と国務委員、各省大臣に相当する各部長、国務院各委員会(国家発展改革委員会など)の委員会主任、中国人民銀行長、会計検査長および秘書長によって構成される。また、国務院全体会議が月1回開催されるほか、総理、副総理、国務委員および秘書長によって構成される国務院常務委員会がある。
近代的農業と社会主義新農村の建設を強調
同会議では、これまでの伝統的な農業から産業としての近代的な農業への脱却が強調され、社会主義に根ざした新たな農村建設などを中心に、あらゆる手を尽くして農民の増収を図ることとされた。そして、科学的視野に基づいた発展実現のため、いわゆる三農問題(農業振興、農村の経済成長、農民の増収と負担減)の解決が、最重要事項として改めて位置付けられることとなった。これらを受け、会議では、重点取組事項として以下の6項目が挙げられた。
(1) 農業の近代化に向けた投資を増加すること。
(2) 食糧生産を一層重視し、確実な生産実現を図ること。
(3) 近代的農業の産業体系を早急に構築すること。
(4) 農業施設・設備の近代化水準を着実に上昇させること。
(5) 農業の近代化に向け、科学技術と人材の強化を絶えず実施すること。
(6) 近代的な農業市場システムの構築を推進すること。
また、孫政才農業部共産党組書記は、近代的農業の発展に向け、2007年に実施すべき具体的な重点対策として、以下の8項目を強調した。
(1) 総合的な食糧生産能力を着実に高め、作付面積を15億8千万ムー(約105万4千平方キロメートル:1ムー=約6.67アール)以上とするとともに、単収を前年比1%以上増加させること。
(2) 農業の構造改善を継続して実施するとともに、農業の産業化と農産物加工業のレベルアップを着実に図ること。
(3) 畜産業の発展を加速させ、重大な動物感染症の防御能力を高めるとともに、優良品種の繁殖・育成と普及に関するシステムを構築し、飼養管理の向上を推進すること。
(4) 農産物の品質管理・監視を強化し、安全水準を向上させるとともに、法令の順守状況や抽出検査の強化を図ること。
(5) 農業科学技術の開発と進歩を推進するとともに、新技術の普及を加速させること。
(6) 農業技術の普及サービスや農産物の市場情報サービス、農業金融サービスなど、農業に対する社会的なサービスシステムの構築を強化すること。
(7) 農村改革と農業の対外開放の度合いを深め、農業発展のための活力を増強し、農村土地請負制度(注2)の改善と安定を図るとともに、農民専業合作社(注3)の健全な発展を促進する。
(8) 農民が現実に直面している問題の解決に力を注ぎ、社会主義新農村の建設を確実に推進すること。
注2 農村土地請負制度
中国では、憲法によって農村土地の所有者は農民集団とされているが、農民集団が所有する土地の一部について、農家が農業経営を請け負うことができる制度も存在する。土地請負経営権を得た農家は、請け負った土地における農業生産活動によって得られた生産物について、国や農民集団への一定の上納義務などを果たせば、残りはすべて自らの所有にすることができる。
注3 農民専業合作社
概ね80年代以降に登場してきた農業協同組織で、地元政府の農業部門や龍頭企業(農産物加工など農業産業化経営のリーディング企業の総称)、供銷合作社(農産物などの購買・販売組合)、あるいは農民が中心となって設立されたもの。
農民専業合法社法は国際協同原則や日本などの農業協同組合組織を参考にして起草され、2006年10月31日の全国人民代表大会常務委員会で成立し、同日、中華人民共和国主席令第57号により公布された。農民専業合作社は、農業・農村の経済発展を図るための法人組織として位置付けら
れているが、金融などの兼業が認められておらず、作目横断的でないことなどが、日本の農協組織とは異なっている。同法は、2007年7月1日から施行される。
農村最低生活保障制度の全国的な確立を決定
また、同会議では、都市部と農村部の住民を含む社会保障システムと、農村最低生活保障制度を全国的に確立する必要性が明確に打ち出された。そして、すでに制度が構築されている地区では、制度の改善と充実を奨励し、制度の構築されていない地区に対しては、その構築を支援することとされた。
農村最低生活保障制度は、いわば農村部で最低生活水準を維持することが困難な住民に対する社会的救済制度であり、その確立は、都市部と農村部における生活格差を緩和し、農村部住民の保護を図るとともに、中国国民として有する生存の権利を保証するもので、同時に農村経済の発展を促進し、市場経済の発展にもつながるものとされる。
関係当局によると、同制度は、広東省や浙江省など先進的に経済発展を遂げた一部の省・直轄市などで制定された農村最低生活保障弁法に基づき、すでに97年から実施されている。現在、同制度は、全国で2千を超える県級行政区(注4)において構築されており、保障対象は農村貧困者総数の42%に相当する985万人に及ぶとされる。
注4 中国の行政区は省級、地級、県級、郷級に区分される。(1)省級は省、自治区、特別行政区(香港、マカオ)および直轄市(北京、上海、重慶、天津)、(2)地級は副省級市(ハルピン、アモイ、大連、青島など)、地級市(武漢、嘉興など)、自治州および地区など、(3)県級は県、自治県、地級市の市轄区および県級市など、(4)郷級は郷、鎮などをいう。
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