米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は11月15日、乳製品市場における多国籍企業の影響力の増大と国内外における貿易政策改革の進展により、米国の酪農・乳業界が外国からの競争圧力に直面し、新たな岐路に立たされることになるとする報告書を公表した。
政府による乳製品市場への介入措置の問題点
米国においては、生乳価格が9.90ドル/100ポンド(26.2円/s:1ドル=120円)を下回ることを防止するため、商品金融公社(CCC)が生乳支持価格に対応する製品価格でバター、脱脂粉乳およびチーズの買い上げを行うことになっている。この政府による介入措置は、乳製品市場を改善するための施策として古くからあるものだが、USDA/ERSは、この措置が生産者に対する支援措置と外国との競争防止のための政策になっているが、乳製品の国際市場価格が上昇傾向にある中で、価格支持制度による生産者の利益は縮小する可能性があり、長期的に見れば、市場のシグナルを曲解させたり生産者が新たな機会を求める活力を阻害する可能性があるとしている。
国際化の進展と拡大する乳製品需要
一方で、本報告では、乳製品の国際市場の変化が進展することにより、米国と諸外国との乳業界の競争力に影響が及び、また、世界的な政策の役割にも影響が及ぶことになるとしている。特に、米国の乳業界は国際化の進展に対応して技術革新、規模拡大および企業合併により競争力を高めようとしているものの、需給の状況に応じて生産・販売拠点を移動させることが可能な多国籍乳業企業(ネスレ、ユニリーバ、フォンテラなど)が巨大な国内市場と生産余力を持つ米国に注目しており、これら企業が実際に米国市場で顕著な存在感を示しつつあるとしている。
また、このような多国籍企業間の国際競争により、乳製品市場が活性化されて需要が増加しているとし、高収入の国では主として量の拡大ではなく高付加価値乳製品の消費により年率約2%の成長を続ける一方、多くの開発途上国では牛乳乳製品の消費は年率10%を超える勢いで増加しており、特に中国では、年率15%を超える勢いで消費が拡大しているとしている。
貿易の自由化は米国の酪農・乳業にとってプラス
さらに、経済分析モデルを用いて国際的な乳製品貿易の自由化の影響を分析した結果、自由化は乳製品の国際市場価格の上昇をもたらし、乳製品の貿易額を増大させるとした上で、この場合であっても米国の生乳生産量の減少は2%以下にとどまるとの予測を示している。また、この予測結果には酪農乳業の国際化に伴う効果、すなわち、(1)新たな乳成分製品の開発、(2)中国やインドのような新興途上国における需要の拡大、(3)技術革新によるシェルフライフの長期化、(4)国内外の乳製品市場における多国籍企業の役割の増大の影響などが考慮されていないとした上で、米国が生産効率の点で近年のような有利性を保つことができるならば、米国の酪農家と生乳処理業者はむしろ貿易自由化の恩恵を受ける側になり、消費者と生産者の両方が自由化に伴う市場アクセスの改善と国際価格の上昇による恩恵を受けることになるとしている。
酪農乳業の発展のためには柔軟性と技術革新が重要
USDA/ERSも自ら認めるとおり、国内需要を満たすために適切な量の生乳を供給することは多くの国で重要な政策課題となっており、酪農制度や補助事業は概して生乳生産を保護する仕組みになっている。また、これらの政策の結果、国内需要を上回る国内の過剰生産が奨励され、EUやカナダや米国のようないくつかの国では余剰生産物を輸出するために補助金が給付されている。さらに、ほとんどすべての国が乳製品の過剰輸入を防止する貿易政策を実行している。
しかし、本報告では、先進国における新規乳製品の開発や途上国の経済発展などにより、国際市場における牛乳乳製品の需要は増大が見込まれるとした上で、酪農政策としての価格支持の役割は終わりを迎えつつあり、付加価値の高いチーズを先進国向けに輸出するEUの例を引用しつつ、国際競争力を向上させるためには柔軟性と技術革新の役割が重要になっていると結論付けている。
用途別の生乳取引と乳製品の価格支持が依然として政府の制度として位置付けられ、酪農家のみならず乳業団体もその維持を強く主張している中で、米国が多国籍乳業企業などに新製品開発のインセンティブを与える政策をとることができるのか否かは、次期農業法の議論においても注目されるところである。
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