例年にない規模の洪水
タイでは8月27日以降10月下旬まで、北部や東北部を中心に大量の降雨があり、北部から中部の首都バンコクに流れるメナム(チャオプラヤ)川流域で広範囲にわたって洪水が発生した。内務省災害対策局(DPM)によれば、10月29日までにこの洪水によって159人以上の死者が生じ、約100万世帯、360万人が被災したとされている。農地が冠水するなど、被害が拡大したが、乾期の訪れとともに降雨量が減少し、一時は通常水位を2メートル以上超えていた下流のバンコクにおけるメナム川の水位も、徐々に低下しつつある。ただし、首都への被害を避けるために遊水地とされた地域では、今後3カ月間、水が残るとされている。同国ではこれまでもたびたび洪水は発生しており、昨年の9月や12月にも北部のチェンマイなどで被害が出ているが、今回の洪水はこれまでにない規模で被害が拡大した。
農業は米作中心に被害
農業協同組合省が10月中旬までに取りまとめた洪水被害に関する報告によれば、被害地域は全国1都75県のうち58都県で、被災農家数は約30万戸、被災農地は452万ライ(約72万ヘクタール)、そのうち水田は368万ライ(約59万ヘクタール)と大部分を占めている。作物の被害総額は12億3千万バーツ(39億4千万円:1バーツ=3.2円)になると見込まれている。ただし、米作地域は年4期作地域で、今回の洪水は3期目に当たり、年間の収量の一部が被害を受けたとしている。また、内水面における水産養殖においても養魚が逃げるなど被害が生じており、養殖場からワニが逃げたところでは、行政機関が周辺住民に対し注意を呼びかけた。
酪農の飼料不足や豚の水死
タイ酪農振興公社(DFPO)によれば、現在調査を継続中としているが、北部のスコータイやピチット県では100戸を超える酪農家が洪水による採草地の冠水のため粗飼料不足に陥り、搾乳量の減少による収入不足に直面したほか、高湿度による牛のひづめの疾病の発生や、人工授精率の低下による機会利益の喪失などを報告している。また、DFPOは、水が引いた後にまく牧草の種の配布を計画しているが、再度被害状況の調査が必要としている。また同国の養豚協会によれば、これまでにメコン川流域において洪水により種豚1万5千頭および肥育豚8万頭が死亡しており、今後、供給の減少から豚の農家販売価格は上昇すると予測している。
政府は補償などを計画
このような中、政府は今回被害を受けた農家に対して、喪失家畜への補償や金利の負担軽減を計画している。現時点での家畜の補償単価は、それぞれ1単位当たり、牛1万5千バーツ(4万8千円;1農家2頭まで)、豚、ヤギ、羊1,200バーツ(3,840円;同10頭まで)、在来鶏22.5バーツ(72円;同300羽まで)、採卵鶏、ブロイラー15バーツ(48円;同1千羽まで)、ガチョウ50バーツ(160円;同1千羽まで)となっている。金融関連では、返済期限の延長、金利の引下げ、経営再開のための融資機関の指定を行うなどとなっているが、関係者は、被害額の確定に最低でも1カ月を要するとみており、その間に援助条件の調整が行われる見込みとなっている。
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