海外との経済連携を積極的に推進
戦後経済の枠組みにおける中国の本格的な海外との経済連携は1947年、23カ国で行われた「関税および貿易に関する一般協定」(GATT:48年発足)の交渉協議に、当時の中華民国が創設国の一つとして参画したことに始まる。49年に中華民国の統治基盤である南京国民政府が台湾に移り、中華人民共和国(以下単に「中国」とした場合は同国を指す)が成立すると、中華民国(台湾)政府は50年にGATTからの脱退を通告、65年に台湾はオブザーバーとして復帰したものの、中国本土はその後もGATT締結国からはずれることとなった。しかし、82年には中国のGATTオブザーバー資格が認定され、中国は86年7月、「GATT締結国としての地位回復」を申請した。95年1月、GATTの発展的解消により世界貿易機関(WTO)が成立すると、中国は95年7月、加盟への交渉を開始、2001年12月に正式加盟した。
その一方で、中国は91年アジア太平洋経済協力会議(APEC)に加盟、96年にはアジア欧州会合(ASEM)、2001年にはバンコク協定(75年に国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)指導下において、開発途上国・地域間で締結された優遇関税条項を含む貿易協定。現在、中国、バングラデシュ、インド、ラオス、韓国、スリランカが加盟。2005年11月アジア太平洋貿易協定と改称)に加盟するなど、地域協定にも積極的に加わってきた。
また、WTO加盟後は、香港、マカオや東南アジア諸国連合(ASEAN)、チリなどと自由貿易協定(FTA)を締結、このほかパキスタン、オセアニア、中東、アフリカなどとも交渉を開始または交渉が予定されるなど、海外各地の国・地域などと積極的な経済、貿易の連携に努めている。
表 中国の自由貿易協定(FTA)
米国に対抗し、世界の多極化を目指してインドに接近
2006年11月20〜23日、中国の胡錦涛国家主席が、中国の元首としては10年ぶりにインドを公式訪問した。同21日には、胡主席とインドのマンモハン・シン首相立ち会いの下、薄熙来商務部長とナート商工相が「中華人民共和国政府とインド共和国政府との投資の促進・保護に関する協定」に調印した。これにより、両国政府は相互投資を奨励・促進するとともに、両国の投資家に対しては内国民待遇と最恵国待遇が与えられるなど、その権益が相互に保障されることとなった。
また、同じ11月21日、胡主席とシン首相による中印首脳会談が行われ、包括的な経済貿易協力関係の強化と、2010年までに両国間の貿易額(輸出額と輸入額の合計。以下同じ)を現在のほぼ倍に当たる400億ドル(約4兆7千億円:1ドル=117円)まで拡大することなどを盛り込んだ共同宣言が発表された。
中印の貿易額は、90年には3億ドル弱(約350億円弱)にすぎなかったものの、2004年には136億1千万ドル(約1兆6千億円)、2005年には187億3千万ドル(約2兆2千億円)に上り、2006年は200億ドル(約2兆3千億円)を超えるとみられている。現在、中国はインドにとって米国に次ぐ第2の貿易相手国となっているが、中国のアナリストによると、薄商務部長は、2010年には中印貿易額が500億ドル(約5兆9千億円)に達し、中国は米国を抜いてインドの最大の貿易パートナーになると予測しているという。
このように、中国がインドに接近する背景には、米国に対抗し、世界の多極化を目指そうとする中国の外交姿勢があるといわれる。
胡主席、ムンバイで中印FTAの必要性強調
胡錦涛国家主席は11月23日にパキスタンに向け同国を離れたが、その同じ日、インド最大の都市ムンバイ(旧名ボンベイ)で開催された中印経済貿易投資協力サミットおよび最高経営責任者(CEO)フォーラムに出席、講演を行った。
その中で胡主席は、中印両国の経済貿易関係が拡大すれば、21世紀はアジアの時代になるとし、そのための手段の一つとして、両国間におけるFTAが重要であることを強調した。そして、中印双方の経済貿易協力の推進に向け、(1)貿易の多様化の推進、(2)情報技術(IT)、資源・エネルギー、インフラ、科学技術、農業など両国が優位にある重点分野における協力拡大、(3)貿易投資環境の改善、(4)多国間および第三国との協力・連携強化、(5)貿易自由化を積極的に模索・検討するなど5点にわたる提案を行った。
中印の思惑の違いも表面化
中印両国の経済貿易の協力促進ムードの一方で、59年9月から62年11月まで続いた中印国境紛争やチベット問題、中国・インド・パキスタンの3国間関係など双方の間に横たわる政治課題などは事実上先送りされ、両国の思惑の違いも表面化しているとされる。
人口13億人の中国と11億人のインドという両国市場の巨大性、潜在性を考慮すると、FTAを含めた中印2カ国の経済貿易協力は、双方にとって大きなビジネスチャンスであるといえる。
しかし、インド側には、価格と質の点で勝る中国製品の無制限な流入により、自国産業が脅かされるのではないかという警戒感が強いともいわれている。加えて、インドは90年代以降、米国とも良好な関係にあるほか、旧宗主国であるイギリスをはじめヨーロッパ各国との結びつきも強いとされ、多極化を目指す中国の期待通りになるかは不透明であるといわれている。
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