家畜個体識別制度(NLIS)の運用状況を評価 ● 豪 州


 豪州連邦政府の農漁林業省(DAFF)は12月22日、2005年7月1日から全国的な実施が義務化された全国家畜個体識別制度(NLIS)の状況について、その分析結果を公表した。これによると、NLISの対象となるべき家畜の一部については、データベースに登録されていないなどの事例が明らかになったものの、これまで利用されてきたほかの識別制度に比べ、相対的に効率な運用が行われているとしている。これは、NLISの信頼性などを精査するため、DAFFの委託を受けて大手調査機関が行った分析結果に基づくものである。

全体的には効率的としながらも、運用面での問題を指摘

 公表内容によると、これまでの家畜個体識別手段として利用されてきた農場識別番号(PIC)などの手段に比べて、全体的に効率よく運用されていると評価している。一方で、NLISの問題点として、システム面ではなく、運用面での問題を挙げている。これは、NLISの計画推進に必要な資金の不足、また、導入時の混乱や農家段階での知識の欠如などにより登録がスムーズに行われなかったことで、NLISの対象となるべき家畜の6.4%がデータベースに登録されていないことなどを指摘している。さらに、不適切な耳標装着など作業面での問題点も挙げている。

 電子耳標を利用した牛の個体識別制度であるNLISは、農場から移動するすべての牛にNLISタグを装着することで、家畜市場やと畜場でタグが読み取られ、その移動略歴が豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の管理するNLISのデータベースに記録される。これにより、疾病などが発生した際、各個体について生産現場からと畜場所まで効率的に追跡できるとしている。また一部の州では、NLIS実施の義務化に当たり、生産者のコスト負担増を軽減するため、NLIS用の耳標代について、代金の一部負担などの支援措置を行っている。

連邦政府農相、NLISは豪州産牛肉の輸出戦略に不可欠

 今回の分析結果を受けて連邦政府のマクゴーラン農相は12月22日、業界の一部から出ていたNLISに対する不満について、何の根拠もない苦情は無責任だと批判した上で、「この包括的なシステムは、牛肉生産量の約6割を輸出する海外市場での競争に不可欠なものである」と述べ、NLISが海外市場における豪州産牛肉の輸出競争力強化に欠かせないものであることを強調した。また、「(輸出市場から)大きな利益を引き出すためにも、絶えずシステムを監視することが畜産業界、連邦政府、州政府にとって有用なこと」とし、官民が一体となった継続的な制度運用の必要性を訴えた。

 今回の分析結果についてDAFFも、NLISにより肉牛の移動略歴が正確に記録されることで、日本やEUなどの主要牛肉輸出市場において、豪州産牛肉の安全・安心感を示せるなど、販売面で不可欠な要素になっているとしている。

肉牛生産者の間では賛否両論

 NLISの義務化が実施されてから18カ月が経過する中で、DAFFによる今回の分析結果の公表は、肉牛生産者の間で賛否両論を巻き起こしている。

 肉牛生産者の全国的な組織である豪州肉牛協議会(CCA)は12月29日、今回の分析結果について、豪州の牛肉輸出先は疾病や残留農薬などに対して非常に敏感な国々であるとした上で、NLISは引き続き改善の予知はあるとしながらも、このシステムが豪州の牛肉産業にとって非常に効果的に働いており、重要なシステムであることが明らかになったと満足感を示した。

 一方、同じく肉牛生産者組織の一つである豪州牛肉協会(ABA)は1月2日、今回の分析結果はNLISの実態を正確に精査していないとして、内容に不満の意を表した。また、マクゴーラン農相がNLISは牛肉輸出に欠かせないものと発言した内容に対しても、NLISを正当化させるための根拠のない主張であるとのコメントを発表している。


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