米国の乳業団体である国際乳製品協会(IDFA)のティプトン会長は1月15日、同協会の総会において、米国の酪農・乳業の発展のためには国際市場における米国産乳製品の競争力強化が重要であり、次期農業法において酪農制度を大きく改正して市場原理の導入を図るべきとの考えを明らかにした。
米国の酪農・乳業をめぐる内外の環境変化を意識
同会長は、民主党主導の新しい議会の下では最低賃金の引き上げや環境規制の強化が予想されるだけでなく、連邦政府の財政赤字問題を背景に、次期農業法の議論では農業補助金の額が厳しく査定されるであろうとした上で、業界の意向にかかわらず酪農乳業政策が次期農業法において見直しの対象となることは避けられないとの認識を示した。
特に、米国の主要酪農・乳業政策のうち、飲用乳価にリンクした不足払いである生乳収入損失契約事業(MILC)は既に失効することが確定しており、また、政府が乳製品の買上げを行う加工原料乳価格支持制度(DPSP)はWTO交渉における国内支持水準削減の議論において貿易政策上の大きな障害となっているとし、これらを含めて国内制度の改革を議論するタイミングは農業法の議論が行われる今年しかないと参加者に訴えた。
MILCとDPSPを廃止し、それぞれ環境対策と収入保険への転換を主張
同会長は、MILCについては特定の酪農家に多大な財政支出が行われる不公平さに加え、生乳価格とリンクして補助金額が決定される点も問題であるとし、これを廃止して酪農家が環境規制に対応するための直接支援策、具体的には、ふん尿を処理するメタン発酵施設の建設に対する支援事業などに転換することにより、納税者からの理解を得ながら国際貿易上の問題にも対応可能となるとした。
また、DPSPについては、政府の市場介入により人為的に生乳生産が刺激されて恒常的な生産過剰を招く点や、政府買い上げに依存するあまり市場で需要が増大している機能性乳食品などの開発意欲が削がれる点が問題であるとし、一定の経過期間を設けた上でこれを廃止すべきとした。さらに、DPSPに代わる酪農経営のセーフティーネットとして、2002年農業法でトウモロコシや大麦に導入された収入保険制度に類似の仕組みを構築するとともに、酪農家と乳業者の生乳事前契約取引を推進する事業を導入することが重要であると述べた。
連邦ミルクマーケティングオーダー(FMMO)制度は運用改善で対応
FMMO制度については、政府が生乳の用途別最低取引価格を定める政策が「時代遅れ」であるとして強い問題意識を示す一方で、2000年に制度変更を行った際の経験からこの議論に多大な時間と労力を費やすことには消極的であるとし、次期農業法の議論において用途別乳価の算定方法の改訂手続きを迅速かつ効率的に改善するよう求めていくことが現実的であるとの考えを明らかにした。
なお、FMMO制度に基づく用途別最低乳価の算定方法については、昨年12月29日にクラスV(チーズ・ホエイ向け)およびクラスW(バター・粉乳向け)について乳価引き下げの方向で改訂することが確定した(実施は本年2月から)ものの、酪農団体が求めていたクラスT(飲用向け)およびクラスU(アイスクリームおよびヨーグルト向け)の算定方法の見直しについては現在も議論が継続中であり、その動向が注目されている。
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