本年1月の原案をそのまま実施へ
米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)は9月14日、BSEの侵入リスクが極めて小さい発生国(現状では、カナダのみがこれに該当)からの生体牛の輸入を30カ月齢未満のと畜場直行牛に限っていた現行規則を改正し、99年3月以降に生まれたすべての生体牛の輸入を認めることを公表した。この最終規則は、本年1月9日付けの官報で公表されていた原案(平成19年1月16日週報第750号参照)をそのまま実行に移すものであり、9月18日付けの官報で公表され、11月19日から施行される予定である。なお、現行規則の下で輸入可能とされていながら、これまでその適用が先延ばしされていた30カ月齢以上の牛肉について、9月18日から輸入許可を開始することも併せて公表している。
USDAは国際的なガイドラインに
基づいた危険性評価の有効性を強調
USDAのブルース・ナイト次官は、今回の最終規則について、「しっかりとした科学的根拠をもったBSE対策の継続を可能にするとともに、公正な貿易慣行の推進という立場から、BSEのまん延防止のために適切な対策をとっている国との貿易の正常化を進めるものである」としている。
今回の措置の決定に当たり、USDA/APHISは国際獣疫事務局(OIE)のガイドラインに基づいてカナダと米国の双方のリスク低減措置も含めたリスク経路の全体(輸入によるBSEの侵入の可能性、侵入した感染物質に国内家畜が暴露される可能性、暴露された家畜が最終的に感染する可能性など)の評価を行ったことを強調している。とりわけ、カナダにおいて飼料規制後に生まれた牛にBSEの発生が確認されていることへの懸念に対し、米国食品医薬品局(FDA)による反すう家畜由来飼料の反すう家畜への給与禁止、輸入時の管理強化、積極的な疾病調査、米国のと畜作業の改善など、何重もの対策が講じられていることを例示し、リスクが無視できるという最終結論を覆すには至らないと判断した背景を説明している。
カナダ側は米国政府の決定を評価
今回のUSDAの発表を受け、カナダ農務・農産食品省のゲーリー・リッツ大臣は直ちにコメントを公表し、BSE規則の改正を官報に告示しようとする米国側の動きを官民ともに歓迎するとしている。また、飼料規制の厳格化などカナダ政府による家畜衛生対策の強化が他国の意志決定に良い影響を与えているとするとともに、OIEがカナダを「BSEリスクが管理された国」に分類したのは、浸潤状況調査、リスク軽減措置、撲滅対策といったカナダの措置が効果的に機能していることの証であるとしている。
カナダ肉用牛生産者協会(CCA)も今回の決定により2005年の輸入解禁時には認められなかった牛肉や生体牛の多くが輸出可能になるとして米国の決定を歓迎している。CCAのヒュー・リンチ・スタントン会長は、米国の決定は科学に基づいたOIEの国際基準に沿ったものであり、世界中の国々に対して科学に基づく国際的なガイドラインを順守するよう前向きなメッセージを伝えるものであるとコメントしている。
米国の酪農家団体は経済的な悪影響を明示して懸念を表明
一方、米国の畜産団体について見ると、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)や米国食肉協議会(AMI)など食肉の生産・流通業界の太宗が今回のUSDA決定について容認の姿勢を見せているのに対し、米国最大の酪農家団体である全米生乳生産者連盟(NMPF)が規則の実施に不満を持つ立場を明確にするなど反応が分かれている。 このうち、NMPFは、今回の規則改正により、と場直行牛だけでなく初妊牛などの繁殖牛の輸入も解禁されることを問題視し、今後どのような対応をとっていくか十分に検討するとしている。NMPFのジェリー・コザック会長は、USDAが生乳価格の下落による酪農家への影響はほとんどないとしていることに対し、仮に2003年と同程度の生体牛の輸入(年間47,000頭〜60,000頭)がなされれば生乳の供給量が0.5%増加し、今後5年間の生乳価格が18%低下して酪農家の収入が50億ドル(5,800億円:1ドル=116円)低下するとの試算を示して反論している。また、輸入初妊牛の増加による国内初妊牛価格の低下や、輸入乳廃牛でBSEが発生した場合の国産廃用牛価格の低下など、乳価以外にも酪農家への悪影響が懸念されるとしている。
今回のNMPFの反論は、カナダ産生体牛の輸入解禁による米国内でのBSE発生リスクそのものについては直接ふれておらず、USDAの行った危険性評価の結果を否定しているわけではない。乳価の低迷に苦しんだ前年とは異なり、クラス4(バター・脱脂粉乳向け)生乳価格が21.87セント/ポンド(キログラム当たり約55.45円)と史上空前の高値を記録するなど好況に沸く酪農業界が、カナダ産生体牛の輸入解禁にどのように反対していくのか、今後の動向が注目される。
|