改善を進める米国食肉処理施設の現状



ひとくちMemo

 米国の1人1年当たりの食肉消費量は、牛肉でわが国の約5倍、豚肉で約2倍、鶏肉で約4倍の水準を示し、食肉が食生活の中心であることを物語るとともに、同国の食肉産業の発展を支えている。
 米国の流通・加工段階における食肉生産は、消費者ニーズの変化に対応しながら、品質や供給量の安定化、低コスト化を実現するため、作業工程を細分化し、工業製品のように流れ作業で加工する大規模生産が特徴である。また、80年代初頭以降、主要食肉パッカーによる寡占化が顕著となっている。

  米国農務省穀物検査・肉畜取引管理局(USDA/ GIPSA)によると、牛肉パッカーについては、80年代初頭から2005年までの間に、年間処理能力が50万頭を超える施設が8カ所から18カ所に増加する一方で、総施設数は743カ所から172カ所と約4分の1まで減少するなど集約化が進んでいる。また、豚肉パッカーにおいても、80年代初頭には合計で509カ所あった処理施設は、2005年には163カ所まで減少し、さらに、同年では、年間100万頭以上のと畜能力を有する28施設において全と畜頭数の約9割が処理されるなど、施設の大型化と集約化が進展している。
 今回は、安全・衛生管理を図りつつ、国内外のユーザーが求める商品の開発に取り組む米国の食肉処理施設の事例を紹介する。

【牛肉パッカー】

 コロラド州北部に位置するSwift社グリーリー工場では、同施設の半径200マイル(320キロメートル)以内にある60のフィードロットや肥育生産者からと畜向け生体牛が集荷される。生産者からは、肉骨粉を給与していないことに関する供述書を提出させているほか、飼料のサンプリングを行い、動物性たんぱくの含有のないことを確認しているとのこと。同施設の1日当たりのと畜頭数は、約3,000頭。

 生体牛の受入時、書類確認のほかUSDAの検査官による生体牛の検査が実施される。歩行に異常が見られる牛などは、併設される専用スペース(写真下)へ直ちに隔離される。



  と畜前の生体牛は、ロットごとに頭数と生体重を確認した後、ペンに搬入・管理される。
 と畜・はく皮後、内臓が摘出された枝肉からBSEの特定危険部位であるせき髄を吸引しているところ。
 枝肉の前半分と後半分を異なる担当者が作業することにより、せき髄は適切に除去される。
 日本向けの枝肉は、保冷庫内の日本向け専用レーンに区分して保管される。ほかの枝肉が混入しないよう、レーンには鍵がかけられている。同工場では、と畜後の枝肉を通常、48時間熟成のためにチルド室で保冷する。米国では、96年以降、連邦政府が検査を行うすべての食肉処理施設に対して、危害分析重要管理点監視(HACCP)システムの採用が義務付けられるなど食品の安全性確保対策が図られている。
 日本向けの枝肉には、パッカーの「J」スタンプと、USDAの認証スタンプが押印される。








 米国では27年以降、肉質の格付けが実施され、65年以降は歩留まりの格付けも採用されている。牛枝肉は、第12-13肋骨間のロース芯の面積、背脂肪厚、内臓への脂肪付着度などにより格付され、USDAの格付け員により等級のスタンプが押印される。
 

【豚肉パッカー】

 インディアナ州北西部に位置するインディアナ・パッカーズ社の全景。トウモロコシや大豆畑に囲まれた環境面で恵まれた立地条件の下、食の安全・高品質・価格競争力・生産性などを考慮し、91年に稼動を開始した豚肉パッカーである。2シフトによる生産規模は年間300万頭を超え、現在、規模拡大に向け生産ラインを増設中である。
 同社所有の素豚が育成・肥育される最新の豚舎。8,000頭の肉豚を飼養している。米国では、繁殖・育成・肥育の施設を分けたいわゆるスリーサイトオペレーションが主流だが、最近新築される豚舎には、育成と肥育を兼ねたいわゆるWean-to-Finishと呼ばれるオペレーションも登場している。肥育効率の改善、移動コストの削減が目的で、きめ細かく豚を管理する技術の向上がこれを可能にしている。
 生体豚専用の運搬トラック。トラックの車両は2段あるいは3段式で、1車両当たり190〜200頭の肥育豚が積載可能である。同社へは、インディアナ州のほか、オハイオ、イリノイ、ミシガン州など主にコーンベルト地帯東部より1日当たり約15,000頭の肥育豚が搬入される。工場内で、枝肉重量、赤身率、脂肪の厚さなどが計測され、生産者へのプレミアムが決定される。

 米国では、湯はぎ方式による解体処理が一般的である。毛焼き後、表面の殺菌のため、と体は繰り返し洗浄される。同社で生産された豚肉の約1割(重量ベース)は日本向けに輸出され、9割が米国内で消費される。日本向け製品は、肉質、肉色やロースの厚さなど顧客の多様な商品規格の要望に応じた日本市場に適した豚肉だけが厳選される。
 と畜・湯はぎ工程を経て、枝肉は24時間保管室で冷却される。同加工場内では、HACCPシステムに基づく衛生管理や、部分肉工程における独自の異物検査システムによる品質管理が行われている。
 同施設内には、肉質や残留抗生物質などの検査を行う独自の検査設備が装備され、専門スタッフによる安全確認が実施されている。関係者によると、施設内に検査施設があるため、仮に異常が確認された場合にも、迅速な対応が可能になるということである。
   
 同施設周辺のトウモロコシ・大豆畑(2007年7月末撮影)。同社では、肥育豚向け飼料として、約7割がトウモロコシ、約3割が大豆かす、ほかに栄養補助剤を利用しているとのこと。米国の畜産業は、広大な土地資源によって生み出される穀物生産の優位性を生かし、世界トップクラスの畜産物生産量を誇っている。関係者によると、本年のインディアナ州北西部におけるトウモロコシの生育は、天候にも恵まれ順調で、昨年を上回る単収が期待出来るとのことである。
(撮影協力:Swift&Company社、Indiana Packers Corporation社)
(ワシントン駐在員事務所 唐澤 哲也、郷 達也)

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