特別レポート

中国の豚肉価格高騰と食糧・バイオエネルギー政策


国際情報審査役         長谷川 敦
国際情報審査役付上席調査役 河原 壽
国際情報審査役代理   谷口 清

 

 本稿では2つのテーマに焦点を当てる。

 1つは、豚肉である。今年の春先から、中国国内では基幹食肉である豚肉の価格高騰が伝えられ、6月に一旦は沈静化の兆しを見せたものの、その後また騰勢に転じている。これが世界的なバイオ燃料ブームに端を発したトウモロコシ価格の値上がりと結びつけて論じられることも多い。果たしてそうなのか。中国政府の発表する見解やデータから、中国の豚肉市場で何が起きているのかを整理し、併せて、中国政府が矢継ぎ早に打ち出した対策についても触れる。

 2つは、中国の食糧・バイオ燃料政策とトウモロコシ需給である。前掲の「世界の飼料穀物」コーナーで、米国農務省が中国のトウモロコシ需給をどのように見ているかを紹介している。同省は本年7月公表の‘World Agricultural Production’で、07/08年度のトウモロコシ作付面積拡大の理由の一つに、「飼料用とバイオ燃料用の強い需要」を挙げている。短期見通しとしてはそれで理解できるが、飼料用需要の拡大と併せ、世界のトウモロコシ需給を語るとき最近枕詞のように使われる「バイオ燃料への強い需要」は、中国の場合、少なくとも中期的には拡大するとは考えにくいのではないか。筆者は、昨年12月以降中国政府が打ち出してきている食糧・バイオエネルギー政策に関する方針等を見る限り、そのように考えている。政府関係者へのインタヴューや本年7月2日に中国農業部が公表した「農業バイオマスエネルギー産業発展計画(2007―2015年)」の概要を中心に紹介する。


1 中国の豚肉価格、正常水準での安定は年末か

豚肉価格は6月に入り落ち着くも、同下旬から再び高騰

 中国の食肉総生産量の3分の2を占める豚肉の価格が、再び高騰を続けている。中国では、4月下旬から5月にかけて豚肉価格が急騰し、温家宝国務院総理が自ら豚肉の価格安定を指示するなど、大きな社会問題となった(本誌海外編7月号中国トピックス参照)。その後、関係部署の講じた対策などが功を奏し、6月に入ってわずかながら下落ないし横ばいで推移したものの、6月下旬から再び上昇に転じ、商務部市場運行調節司の統計によると、全国の生鮮豚肉卸売価格は、8月3日には1キログラム当たり20.74元(約326円:1元=15.7円)で、前月同期(2007.7.6)比14.9%高、前年同期(2006.8.4)比89.4%高となった。

 また、8月13日に中国国家統計局が発表した7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比5.6%上昇した。上昇率が5%を超えるのは、2004年9月以来という。6月のCPI上昇率が4.4%であったことと比較しても、騰勢が強まっていることが分かる。この最大の要因は豚肉、卵を中心とした食品価格の高騰にあるといわれている。高騰を続ける豚肉価格を背景に、中国では豚の盗難事件や豚肉を狙った強盗事件まで発生しているという。

全国の生鮮豚肉卸売価格の推移(2007年)


トウモロコシよりはるかに大きい豚肉価格の上昇率

 中国農業部の「全国畜産物および飼料価格情勢」によってもこの1年間の豚生体価格の上昇ぶりが明らかで、昨年6月の1キログラム当たり6.08元(約95円)から本年5月の同10.20元(約160円)まで67.7%上昇している。それに対し、同期間におけるトウモロコシ価格の上昇率は11.5%と比較的穏やかな上昇にとどまっている。この農業部のデータを見る限り、豚/穀物比(豚の販売価格÷穀物(トウモロコシ)価格)が次第に増加していることから、今、養豚肥育経営の収益は増大し、自前のトウモロコシ畑を持つ養豚農家は、トウモロコシで販売するよりも豚に食べさせて販売した方がより収益が大きいと推定される。中国では、豚/穀物価格比5.5が損益分岐点といわれている。すなわち、この比が5.5を上回るときは豚で売るべしという指標になっているのである。下表によって、昨年9月以降、5.5を超える水準が続いているのが確認できる。

 しかし、こうした状況から、今、中国の養豚経営が好況に沸いており、多くの利益を享受していると考えるのは早計である。飼料原料となるトウモロコシ、大豆かす、魚粉などの価格上昇により配合飼料の価格が上昇しているほか、肥料など生産資材全般の値上がりが報じられており、経営の悪化が伝えられた昨年上期の「底」は脱したにせよ、まだ手放しで喜べる状態にはないようだ。現場での調査結果が待たれる。

最近の中国における豚及びトウモロコシ平均価格の推移


豚肉価格高騰の主因は母豚、子豚の淘汰や疾病

 7月14日、新華通信社の記者と会見した黄海商務部長助理は、豚肉価格高騰の原因として、(1)2006年上半期に豚の価格が下落を続け、その損失軽減のため、養豚農家が母豚のと畜や子豚の安売りなどを行った影響から、2007年上半期に至って豚の飼養頭数および出荷頭数が減少したこと、(2)豚の主産地で発生した豚繁殖・呼吸器障害症候群(PRRS)などの影響で、母豚の流死産が多発し、豚の飼養頭数減少に拍車をかけたこと、(3)世界的なトウモロコシ価格の高騰などの影響から、国内外の飼料価格が持続的に上昇し、生産コストを押し上げていること、(4)大洪水などにより、生産地と消費地の間の輸送路の分断が少なからず発生していること−などを挙げた。そして、中国の物流整備の遅れにも言及し、これによる輸送コストの増大が、商務部による地域間調整に支障を来しているとした。

豚飼養頭数の推移

豚肉需給の推移

 国内豚肉価格の高騰は輸出価格にも波及し、商務部対外貿易司の輸出統計(対象月のおおむね2カ月遅れで発行)によると、2007年6月の豚肉輸出単価は、前年同月比47.0%高の1トン当たり2,015.7ドル(約24万円:1ドル=120円)となった。また、動物衛生上の理由から、冷蔵・冷凍を問わず、中国産豚肉が生鮮品の形で日本へ輸入されることはないが、農林水産大臣が指定した工場からの豚肉調製品の輸入は認められており、日本国内の報道などによると、最近の中国産豚カツ(パン粉付きロース)輸入価格は、前年同期比2割高となったといわれている。


2007年3月、北京市の卸売市場
「新発地農場品批発市場」にて


同市場の食肉ブースにて(1)


同市場の食肉ブースにて(2)

 なお、輸出単価の上昇の原因としては、中国内における価格高騰に加え、人民元の対ドルレートの上昇も背景にあるものと思われる。

中国の豚肉輸出単価の推移


深刻な自然災害被災地向けに国家備蓄豚肉を放出

 黄商務部長助理は、前述の新華通信社記者との会見において、豚肉価格の高騰と価格安定に向けた商務部の取り組みとして、(1)市場需給と価格のモニタリングの強化、(2)生産と販売、需要と供給の有機的な接続強化、(3)緊急対策案に基づく市場コントロールの強化、(4)病死豚の肉や注水して重量を偽った豚肉など、違法な豚肉販売の監視および食肉製品の品質安全管理の強化−などを実施しているとした。そして、市場コントロールの強化について説明する中で、深刻な自然災害を受けた地域に対し、商務部がすでに国家備蓄豚肉の一部を放出し、今後も必要に応じ放出を継続していくことを明らかにした。具体的な放出の時期および量などについては触れられていない。

 なお、銅やアルミニウム、食糧、原油などをはじめ、豚肉を含む中国の国家備蓄制度では、その備蓄量や関連予算、備蓄計画そのほか関連統計文書など、具体的な部分の多くについては、国家機密法の規定によって非公開とされている。


正常水準での安定は年末か、養豚の産業化加速が重要との声も

 高騰する豚肉価格について、商務部では当初、豚の導入による供給回復、食肉の季節需要の変化(中国では夏場に食肉需要が減少し、冬場に増加する傾向)および水産物など代替品の十分な供給などにより、2007年7月には豚肉価格の上昇が止まると予測していた。しかし、ひっ迫する需給状況が改善されていないことなどから、7月に入っても高騰が続く事態となっている。

 これに対し黄部長助理は、母豚から生まれた子豚が豚肉として市中に出回るまでには、半年以上を要するため、豚肉の需給がひっ迫する状況を短期間で解決することは不可能であるとした。そして、下半期に入っても、豚肉価格はしばらく高水準で推移し、深刻な災害や感染症が発生した場合には、さらに価格が上昇する可能性もあるものの、関係部署が総合的な対策を講じることにより、年末には需給が緩和し、豚肉価格は徐々に正常な水準で安定する見通しであるとした。

 一方、農業部も、豚の需給緩和の時期について、商務部による豚肉需給の見通しとほぼ同様の今年末ないし来年初めになるとの見方を示している。これに加え農業部は、7月21日に孫政才農業部長が主宰した会議において、豚生産監督指導グループ(生猪生産督導組)を同月23日から10グループ立ち上げ、充実を図りながらこれを20グループにまで増やし、全国60の豚の主産県(市)に分散派遣することを決定した。豚生産監督指導グループは、末端農家まで深く入り込み、実地調査を行って豚の生産状況および養豚の発展方向を把握し、問題事項を明らかにするとともに、動物感染症防御の促進と国家政策の普及、農民に対する養豚生産の奨励などに当たる。孫農業部長は、豚の生産増加が現時点における農業部の主要任務であると位置付け、任務達成に向けあらゆる手を尽くすとの決意を表明した。

 また、商務部市場運行調節司の7月23日の発表によると、中国中央テレビ(中国中央電子台:CCTV)の記者との会見で、ある商務部関係者は、国慶節(10月1日)や中秋節(旧暦8月15日)の前後は食肉需要が高まる時期であり、豚肉価格は今後も高騰を続ける可能性があると語った。また、同関係者は、現在の中国の養豚は、家族による零細経営が主体であり、このことが、大規模化する市場経済において、豚肉需要に対する柔軟な対応ができない大きな原因であると指摘した上で、今後は先進国などを参考に、農業の産業化水準の向上を加速する必要があるとした。


繁殖雌豚保険を試験導入

 さらに、国務院の「豚の生産発展促進と安定的な市場供給に関する意見」(2007年7月30日付け国発〔2007〕22号)に基づき、豚の主産地および大規模養豚農家を対象とした繁殖雌豚保険が、中国人民財産保険股分有限公司など5企業において8月15日までに試験導入された。保険金の支払いは、豚コレラや口蹄疫、PRRSなどの感染症、台風や落雷、地震、洪水、土石流、山崩れなどの自然災害、火災や爆発、建物の倒壊、飛行機の墜落などの事故が対象となる。1頭当たりの保険金支給額は1千元(約1万6千円)、掛け金は60元(約942円)で、掛け金の50%は中央財政、30%は地方財政から支出される。財政部は8月1日、中央財政補助として11億5千万元(約181億円)を手配し、第一弾として5億5千8百万元(約88億円)を近日中に支給するとともに、中央財政から繁殖雌豚補助資金として11億2千5百万元(約177億円)を地方に支給すると発表した。


2 中国の食糧・バイオエネルギー政策

1 国務院発展研究中心にて


 本年3月、筆者は北京で国務院発展研究中心の徐小青農村経済研究部副部長にお会いした。氏は幾つかの重要な法案作成に直接携わっておられるほか、米国や日本の農畜産業事情にも明るい方である。

 当方が、世界的なバイオ燃料ブームと穀物、大豆、油糧種子価格の高騰から、今後の中国の食料需要の見通しや食糧・バイオエネルギー政策でのかじ取りに世界は大きな関心を抱いていること、とりわけトウモロコシなど飼料原料の大半を海外に負うているわが国としては、中国の動向に重大な関心を持っていると説明したところ、次のように語ってくれた。


中国は数年以内にトウモロコシ純輸入国になる可能性
価格上昇は国内需要の強さに起因

 中国のトウモロコシ生産量は1億4千万トン、そのうち1億トン(弱)が飼料用である。飼料の総需要量はもみ付き米なども含めて1億2千万〜1億3千万トンで、畜産業の発展に伴い飼料需要は今後も増え続ける。従って、具体的にいつ頃からトウモロコシの純輸入国に転ずるかは言いにくいが、数年以内にトウモロコシの純輸入国に転ずる可能性はある。今後のトウモロコシ価格については、個人的には楽観視している。(当方が、国内価格はシカゴ先物相場と連動しているのかと問うたところ、)中国国内のトウモロコシ価格の上昇は、シカゴ相場高騰の影響よりも、中国国内でトウモロコシへの需要が強くなったためと見ている。


バイオ燃料生産は非食糧から

 中国におけるアルコール需要は基本的に増加し続けている。具体的な統計数値はないがバイオエタノールなどの生産量は増加しているものとみられる。今、植物由来のバイオ燃料生産量が500万トン(注:後述する2006年12月14日付国家発展改革委員会通知では、「バイオエタノールまたは非食糧バイオ燃料などの目的で提出された計画の生産能力は1,000万トンを既に超えている」としている)、うちトウモロコシ由来が300万トン、3.6キログラムのトウモロコシから1キログラムのエチルアルコールが生産されることから、現行の生産能力ベースで最大1千万トンのトウモロコシが必要となる。一方、(1)米国がトウモロコシ輸出を減らしていること、(2)トウモロコシをアルコール化するのは経済的に引き合わないこと、(3)中国では茎、キャッサバなどの芋類、サトウキビなどからアルコールを製造する技術を開発していることから、非食糧を原料としたエタノール生産を進めるべきであるし、その方向に向かうであろう。中国政府は、食糧を原料としたエタノール生産を抑制する方針(注:2006年12月14日付国家発展改革委員会通知)を打ち出した。今後の技術面での進歩につれて、エタノール生産に占めるトウモロコシ原料の比率は低下するだろう。

 今後、企業が自らの意志でエタノール生産を増やすことはあり得るが、製造能力を拡大するためには省政府の許可が必要であり、難しいだろう(注:国家発展改革委員会の方針により、食糧を原料とするエタノール生産工場の新増設は許可しない)。

中国のトウモロコシ需給(2007年8月発表)


2 農業部「農業バイオマスエネルギー産業発展計画(2007−2015年)」を公表
〜人と食糧を争わず、食糧と耕地を争わず〜


 前述の徐副部長の言葉を裏付けるように、本年7月2日、中国農業部は2015年までの中国独自の農業バイオマスエネルギー産業発展の工程を公表した。

 同月5日に農業部が発表したコメントによると、「党中央、国務院が再生可能エネルギー開発利用の強化に関し、バイオマスエネルギー関連の開発の促進を求めたことに基づき、農業部は昨年から「農業バイオマスエネルギー産業発展計画(2007―2015年)」の編さんに着手した。」としている。

 その概要は次のとおりである(注:見出しや番号は筆者が整理上加えたものであり、原文にはない)。


膨大な資源潜在力

 ・現在、中国では、穀物の粒を穂から取った後の茎が毎年約6億トン生産され、そのうち約3億トンがエネルギーに使用でき、これは1.5億トンの石炭に相当する。
 ・家畜のふん便は約30億トンが生産され、もし有効利用されれば膨大なメタンガスとなる。
 ・多くの荒れ山、荒れた傾斜地とアルカリ土壌などの限界地では、サトウキビ、スウィートソルガム、キャッサバ、カンショなどのエネルギー源作物の栽培が可能である。
 ・その他、もみ殻、トウモロコシの芯、バガスなどの農産物加工業の副産物の量は膨大で、バイオマスエネルギーに転化することが可能である。


既にある基盤

 ・メタンガス産業の発展は迅速で、家庭用メタンガス技術は国際的にトップ水準、開発規模は世界最大規模であり、すでに累計2,200万戸に普及している。
 ・大・中型のメタンガス製造技術は成熟過程にあり、初歩的な産業化開発条件を備え、全国では、すでに大規模化された肥育・養殖場での大・中型メタンガス施設を3,800ヵ所整備した。
 ・農作物の茎のエネルギー化利用については、全国で茎集中供給所が539カ所整備され、茎の固体成型燃料は、既に小規模試験を開発している。
 ・バイオ液体燃料の初期規模は、中国では陳化糧原料(注)の燃料用エタノール生産モデルで、年生産能力102万トンまで達している。

(注)陳化糧:
  長期貯蔵(3年以上)され、黄曲菌(Aspergillus flavus:広義のコウジカビの一種)が基準値を超え、直接口にする食料とすることはできない食糧。
 国家規定では、陳化糧は、特定飼料加工と醸造企業向けに競売により販売することしかできない。また、厳格な規定に基づき、使用、転売、公定価格の設定、譲渡を行い、勝手に用途を変えることは違法行為である。
 食用での危害は、黄曲毒素(アフラトキシン Aflatoxin)による腹痛、嘔吐などである。
〔出展:広西自治区農業網HP 農業辞典〕


基本理念

(1) 循環農業の理念を堅持し、農業廃棄物エネルギー利用を推進し、これを今後の農業バイオマスエネルギー産業開発の重点方向とする。

(2) 終始、国家食糧安全を農業開発の第一任務にし、エネルギー作物の開発は、前提として人と食糧を争わず、食糧と耕地を争わず、適切なサトウキビ、スウィートソルガム、キャッサバ、カンショ、菜種などエネルギー源作物開発を堅持しなければならない。

(3) 実施してよい技術、自主的革新の強化、農業バイオマスエネルギーのいろいろな有効性の積極的な開発、中国のバイオマスエネルギー産業の持続的で健全な開発を堅持する。

(4) 適地適作と産業化の協調推進、産業間の有効な結合の強化、農業バイオマスエネルギー産業と関連産業の協調発展を堅持する。


全体目標

(1)2010年まで
 ・全国に幾つかの農業バイオマスエネルギーモデル基地を建設し、キーとなる分野の技術を国際的な先進水準に引き上げ、産業化のレベルを引き上げ、農業廃棄物利用の範囲と規模を拡大し、農村生活用燃料構造を合理化する。
 ・具体的な目標は、2010年までに、全国の農村家庭用メタンガスを総計4,000万戸、農家の約30%、年産メタンガス155億立方メートルとし、大規模な肥育・養殖場、肥育団地のメタンガス設備4,000ヵ所を新たに整備することで、年間3.36億立方メートルのメタンガスを新たに生産する。

(2)2015年まで
 ・幾つかの農業バイオマスエネルギー基地を建設し、新技術の開発と産業発展のシステムの基盤を整備し、開発・利用の費用を大幅に引き下げ、農業バイオマスエネルギー産業市場化の初期段階を実現する。
 ・具体的な目標は、2015年までに、全国の農村家庭用メタンガスを総計約6,000万戸、年産メタンガス約233億立方メートルとし、メタンガス産業化開発は大規模な肥育・養殖場、肥育団地にメタンガス設備8,000か所を建設し、メタンガスを年間6.7億立方メートル生産する。
 ・同時に、茎による固形成型燃料応用モデルと茎によるガス集中供給所の建設は、限界耕地の利用によりエネルギー作物を開発し、国家の液体燃料原料要求を満たす。


四大重点プロジェクト

 (1)農村のメタンガス施設の建設
 (2)バイオマスエネルギー技術施設
 (3)農作物の茎エネルギー化利用モデル基地の建設
 (4)エネルギー作物品種の選別・育種および栽培モデル基地建設


エネルギー作物

 ・中国には、食糧生産に適しないが、エネルギー作物の栽培が可能な荒山、荒れた傾斜地、アルカリ土壌の土地などが大量にある。
 ・異なる生育条件に適合する品種を選別・育種・増殖し、生産性の高いエネルギー作物により大規模かつ特化した工場で燃料用エタノールとバイオディーゼル油などの液体燃料を生産する。
 ・中国には、エネルギー用に転換できる作物と植物品種が200種強ある。
 ・現在、燃料用エタノールに適する主要農作物は、サトウキビ、スウィートソルガム、キャッサバ、カンショなど(トウモロコシ、じゃがいもも燃料用エタノール生産に用いることができるが、国家食糧安全に影響し、主要開発品目として栽培するべきでない)がある。
 ・バイオディーゼル油生産用の主要農作物は、アブラナ(菜種)などがある。

 (1)サトウキビ
 多年生の熱帯と亜熱帯の草本作物に属し、南・北回帰線の間が最適な栽培地域で、製糖と燃料用エタノール生産に用いることができる。今後のサトウキビを利用した燃料用エタノール開発の潜在力は、主に3つある。

 1つは、甘しゃ糖の生産過程の中で発生する副産物の糖蜜である。2005/06年度の製糖期で、全国のサトウキビ栽培面積は約2,000万ムー(約133万ヘクタール)、生産量約8,600万トン、砂糖約1,000万トンを生産し、副産物である糖蜜は約340万トンで、約80万トンの燃料用エタノールを生産可能である。

 2つは、砂糖生産を主としながら、砂糖・エネルギー兼用品種を開発することである。現在、サトウキビの1ムー(15分の1ヘクタール)当たりの収穫量は4.3トン程度と、単収が比較的少なく、関連科学研究部門はすでに1ムー当たり収穫量が6〜7.5トンの砂糖・エネルギー兼用品種を育種しており、もし大規模面積での栽培ならば、サトウキビの生産量を大幅に増加させて、砂糖原料供給保障をさらに一歩進めることができるだけでなく、燃料用エタノール生産にとってもさらなる保障を提供して、砂糖・エネルギーの共同生産を実現する。

 3つは、南方サトウキビの作付面積の増加である。広西、広東、海南、雲南などの省・自治区には、まだ0.1億ムーのサトウキビの耕地があり、仮に、その中の半分の耕地で砂糖・エネルギー兼用サトウキビが栽培されれば、1ムー当たりの収穫量を6トンとして約3,000万トンのサトウキビを生産、200万トン以上の燃料用エタノールを生産可能である。

  (2)スウィートソルガム
 干ばつ、大雨、アルカリ土壌などに強く、“高エネルギー作物”の名称があり、1ムー当たり収穫量300〜400キログラムの穀物と4トン以上の茎、茎中樹液の砂糖含有量約16%〜20%、16〜18トンの茎から1トンの燃料用エタノールを生産できる。

 現在の中国における栽培規模は大きくなく、かつ比較的分散しており、北京、天津、河北、内蒙古、河南、山東、遼寧、吉林、黒龍江、陝西、新疆などの直轄市・省・自治区ではすべて栽培している。

 もし、1.5億ムー(1,000万ヘクタール)のアルカリ土壌の耕地の5分の1でスウィートソルガム栽培すれば、普通農場生産量の50%として、スウィートソルガムの茎を6,000万トン収穫でき、約350万トンの燃料用エタノールを生産可能である。

  (3)キャッサバ
 栽培しやすく、干ばつ、大雨に強く、生産性が高い特徴があり、熱帯、亜熱帯地方の栽培に適しており、主要産地は広西、広東、海南、福建、雲南、湖南、四川、貴州、江西などの9省・自治区である。

 生鮮キャッサバのでん粉含量は約30%〜35%で、約7トンの新鮮キャッサバから1トンの燃料用エタノールを生産できる。

 2005年全国栽培面積は約650万ムー(約43万ヘクタール)、総生産量約730万トン、1ムー当たり収穫量は1.1トンと少なく、もし、キャッサバ優良品種を用い、畑の管理と水・肥料を適切に行えば、1ムー当たり収穫量は3〜5トンに達する。

 現在、広西、広東、海南、福建、雲南などでは、荒地、休耕地、未利用の林、農地、放牧用斜面などの未利用地が約2億ムー(約1,333万ヘクタール)あり、もし、その5分の1を開発してキャッサバを栽培すれば、1ムー当たり収穫量2トンとして、8,000万トン収穫可能であり、燃料用エタノール約1,000万トンを生産可能である。

  (4)カンショ
 干ばつ、強風、病虫害に強い特徴があり、やせている土壌への順応性がある。

 中国は世界で最大のカンショ生産国であり、2005年の栽培面積は約7,500万ムー(500万ヘクタール)、総生産量は1億トンである。

 生鮮カンショのでん粉含量は18〜30%で、約8トンのカンショで1トンの燃料用エタノールの生産が可能である。しかし、収穫の季節が秋冬季であることから、凍傷と腐れを生じやすく、現在、貯蔵過程で約20%の減耗があり、直ちに加工すれば、燃料用エタノールを約250万トン生産可能である。

  (5)アブラナ(菜種)
 主要な搾油用作物の1つで、適地の地域が広く、発展する潜在能力は大きい。

 中国では、長江流域、黄河・淮河地域、西北と東北の地方は、すべて菜種の栽培に適しており、適地である地域の耕地面積は15億ムー(1億ヘクタール)以上である。

 2005年の菜種(油菜)栽培面積は1.1億ムー(約733万ヘクタール)、年産約1,300万トンである。

 現在、中国の南方の水田地域は冬季休耕田が約0.6億ムー(400万ヘクタール)あり、南方の丘陵耕地、北方の灌漑区、北方の乾燥地域の耕地も異なる季節で約0.8億ムー(約533万ヘクタール)の休耕地がある。

 アブラナの1ムー当たり菜種収穫量は120キログラム、平均産油率30%である。

 もし、上述の耕地の50%でアブラナを栽培すれば、菜種生産量は840万トンに達し、バイオディーゼル油を約250万トン生産可能である。

 以上紹介したように、昨年12月の国家発展改革委員会通知から、7月の農業部による「農業バイオマスエネルギー産業発展計画」公表に至る中国政府の対応は、「食糧対バイオ燃料」という対立の構図や世界各地でエネルギー源作物の栽培プロジェクトが既にかなりの勢いで進みつつあることで、途上国の食糧問題、地球環境問題など世界に新たな懸念が広がる中、中国政府の確固たる姿勢を内外に示し、将来に向けて、行き過ぎたバイオ燃料化の動きに対する懸念を払拭する上で大きな意味を持つものと考えられる。


3 畜産の発展と飼料穀物需要の行方


トウモロコシは飼料用とでん粉用が拡大の見込み

 中国政府が将来にわたってこうした強い方針を貫く限り、トウモロコシなど飼料穀物のバイオ燃料化は、末端への徹底の程度など不確かな部分を割り引いても、将来大きく拡大するとは考えにくい。

 結局、トウモロコシについては、食肉、牛乳・乳製品などの消費増に伴うそれらの生産拡大(飼料用)とアルコール用以外の工業用、すなわち、でん粉用需要がどの程度の速さで拡大するかが将来の飼料穀物需要を予測する上で鍵になる。

 前掲の表「中国のトウモロコシ需給」(中国国家糧油信息中心2007年8月)では、07/08年度の飼料消費量が9,600万トンと前年比3.2%の伸びが予測されている。また、同年度の工業用3,750万トンのうち、でん粉用は2,300万トンとされ、アルコール用(前年比+3.6%)を上回る前年比7.0%の伸びが見込まれている。

中国の工業用トウモロコシ消費量の推移


中国の食肉消費は伸びるのか

 わが国では、中国の将来の食肉消費(国民1人当たり)が到達する水準について2つの説がある。

 1つは、都市住民と農村住民の年間1人当たり消費量を用いた所得弾力性の推計による消費構造分析から、中国の肉類需要は飽和傾向で、特に、牛肉の消費量はほとんど増えない可能性が高いとする説である。この分析によれば、中国は「欧米型」の食料消費パターンを追随するのではなく、中国独自の食の高度化のパターンを志向している可能性が高いとしている。中国が「欧米型」をたどるか「東アジア先進国型」(たんぱく質源として魚介類のウェートが相対的に高い)をたどるかによって、畜産物や飼料穀物の需要増加見込みは大きく異なってくる〔注1〕。

 2つは、農村の所得が都市の3分の1以下で、肉類の消費が6割程度、牛乳の消費が6分の1程度しかないことから、中国の人口の6割を占める農村住民については、少なくとも肉類需要は飽和状態に達していないとする説である。さらに、中国本土では同じ中国系である香港や台湾に比べてまだ1人当たり肉類消費量が少なく(香港の44%、台湾の66%)、所得向上とともに食生活の変化によって、将来消費水準が香港や台湾並みになる可能性は十分あり得るとしている〔注2〕。

中国の主要品目の1年1人当たり消費量

 筆者は、今後の食肉や牛乳・乳製品需要は農村部で伸びる余地があると考えているが、農村部における所得水準が将来どれだけ向上するか、その速度も、中国の畜産物や飼料穀物需給を考える上で鍵を握っていると思われ、今後、分析が必要である。

参考文献
・中国商務部ホームページ
・中国農業部ホームページ
・米国農務省‘World Agricultural Production’(2007年7月公表)
・〔注1〕Peng Daiyan(中国華中科技大学)、木下順子(農林水産政策研究所)、鈴木宣弘(東京大学)、「中国の動物性タンパク源消費に関する近年の動向と今後の見通し」2007年4月10日
・〔注2〕小西孝蔵(農林水産政策研究所長)、Primaff Review No.24「世界の食料需給見通し−中国の穀物需給を中心に−


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