特別レポート

ベトナムの酪農・肉牛産業の概要

シンガポール駐在員事務所 佐々木勝憲、林 義隆

1 はじめに

 ベトナムでは、経済発展に伴い、畜産物の生産、消費が増加している。国家計画に基づく積極的な畜産振興もあり、2006年の畜産物の生産量は、2000年比で、牛肉(水牛を含む)が57%、豚肉が77%、鳥インフルエンザの影響があった鶏肉でも18%増加しており、生乳生産は約4.2倍となっている。食肉生産量の約8割を占める養豚の概要については2005年3月号で報告したところであり、今号では、2010年までに、牛肉、生乳生産量をそれぞれ2006年の約1.6倍にするという計画が設定されている同国の酪農・肉牛産業の概要について報告する。


2 ベトナム農業の概況

 最近、工業部門とサービス部門の貢献により、ベトナム経済は大きな成長を遂げている。企業の資本総額1,966兆1,650億ベトナムドン(VND、約14兆3,530億円、1VND=0.0073円)のうち、農業部門は33兆8,530億VND(約2,471億円)と約1.7%の割合にすぎないが、農業はベトナムの国家経済で重要な役割を果たしている。

 全国土面積329,314.5平方キロメートルのうち、農地面積は約881万ヘクタールと約27%を占め、このうち耕作地は約665万ヘクタール、果樹などの永年作物地が約225万ヘクタールを占める。また、2005年の農村地域の居住人口は、総人口約8,312万人の約73.0%、農業部門(林業含む)の労働力人口は、総労働力人口の53.3%を占めており、GDPの約838兆VND(約6兆1千2百億円)に農業(林水産業除く)の占める割合は約15.8%に上る。

 2000年から2005年の間に、GDPは実質約44%増加したが、農業部門のGDPは約18%の増加であった。

 ベトナムは南北に約1,650キロメートルと細長い国土を有しており、紅河デルタ地域、北東部、北西部、北中部、南中沿岸部、中部高地、東南部、およびメコンデルタ地域の8地域に分けられる。全体としては熱帯地域に属するが、気候は地域によって異なり、家畜や作物の種類は生産システム同様多様性が見られる。

図1 ベトナムの地域区分図

 ベトナムでの農業生産は、いわゆる小規模自作農が基本となっている。米などの商業規模で大量に生産されている作物でも、その生産を主に担っているのは小規模自作農である。このため、農業生産のための先進技術の導入やインフラ、資本投資が課題となっている。穀物は生産余剰であり一部は輸出されているが、畜産物は生産が需要を満たせず、少量の豚肉が輸出されている以外は、輸入されている。

 こうしたことから、ベトナム政府では、雇用創出と農畜産物の価値の向上、農家の収入増加、食料の安全保障を実現するための構造の変化が必要としている。


3 ベトナム畜産の概況

 ベトナムの家畜の飼養頭数は、各地方で実施されている家畜生産に対する投資の結果、2000年以降急速に増加し続けている。

 2000年から2006年までの間に、飼養頭数はそれぞれウシで58%、ブタで33%、めん羊、ヤギで180%増加した。しかしながら、水牛は1%と微減にとどまり、ウマは31%と大きく減少している。

 家きんについては、鳥インフルエンザ(AI)の発生のため、2004年に前年と比べて14%と大きく減少し、2006年までほぼ横ばいで推移している。それでも2006年の飼養羽数は2000年に比べて9%増加している。これは、政府のAI封じ込め対策の成果や、農産物の畜産物増加に対するシフトの結果であると考えられる(表1)。

表1 ベトナムにおける家畜の飼養頭数(2000年〜2006年)

 畜産物生産の発展には、飼料産業や動物用医薬品、食品加工業などの関連産業の発展も必要である。畜産局(DAH:Department of Animal Husbandry)の2006年の統計によれば、国内で249の飼料工場が稼動しており、約540万トンの濃厚飼料を生産している。しかし、反すう家畜向けは約8万5千トンと、生産量の約2%の使用にとどまっている。

 草地面積は、2005年には約4万9千4百ヘクタールと、全農地面積約881万ヘクタールの0.6%にすぎない。草地面積の28%の1万3千7百ヘクタールが集約的な飼料生産に用いられており、残りは乾物収量の低い未改良草地となっている。草地やほかの農業副産物から生産される粗飼料は、国内の反すう家畜の総需要の約54%にとどまっている。

 畜産物は、ほとんどが国内市場で消費される。輸出は、香港やロシア向けに少量の豚肉が輸出されるのみである。2001年から2005年までの期間、年間2万トン程度の豚肉が輸出されてきた。しかしながら、2006年以降、国内価格が上昇したことからロシアへの輸出は停滞している。品質面から、国内産の水牛肉、牛肉は国内の一般向け市場で消費されており、ホテルやレストラン、高級スーパーマーケットなどには米国や豪州、アルゼンチンなどからの輸入牛肉が仕向けられている。

表2 ベトナムにおける主要畜産物の生産量(2000年〜2006年)

 農業総生産額は2000年から2005年の間に43%増加したが、このうち畜産物の占める割合は、約19%から約23%まで増加した(表3)。

表3 農業生産額の内訳の推移(2000年〜2005年)

 ベトナムでは、家畜・家きんの大部分が家族経営のと畜場でと畜される。DAHによれば、2006年には、家畜をと畜する施設が8,949カ所、家きんをと鳥する施設が997カ所であった。こうした施設の大部分が小規模であり、設備が食品衛生と安全面の規格を満たしていない。食品加工業者と関連のあると畜施設は1,045カ所であったが、これらの多くも大規模ではない。

 食肉の多くは、冷蔵の陳列棚ではなく、室温でテーブルに置かれたり吊るされたりした状態で小売される。家族経営のと畜場は衛生状態が決して十分ではないが、と畜料金や税金が高い公共と畜場への移転を望まないケースが多い。このように、産業規模と規格に沿ってと畜、食肉処理、包装を行う食品加工業は、まだ十分発達していない。DAHによれば、産業的施設で処理、加工された食肉を含む食品は、総消費量の2%にすぎない。


地方のと蓄場の例

 畜産物は主に国内市場で消費される。農家からは、家畜商を通じて家畜、家きんがと畜場に売買される。製品はと畜場から小売業者を通して、消費者の手に届く。ほとんどの食肉はと畜後12時間以内に消費され、一般には冷凍肉はまだ広まっていない。小規模の家族経営を基盤とする生産システムの結果としてこのような消費形態が定着しており、産業的な食肉製品が全体に占める割合が小さい理由である。

 2005年の食肉の平均消費量は国民一人当たり34.3キログラムであった。このうち豚肉が約81%、家きん肉が約11%、牛肉が約6%、水牛肉が約2%を占めている。


4 ベトナムの酪農・肉牛産業の概況

(1)歴史的背景
 歴史的には、ベトナムにおいて、ウシ、水牛は長い間、労働力と肥料生産を目的として飼養されてきた。1123年に当時の国王が、その労働力の重要性から食肉生産を目的とした水牛のと畜を禁止する勅令を発した記録がある。


水浴びする水牛

 畜産業としての反すう動物の利用は、1887年からのフランス植民地時代に始まった。フランスにより獣医学、動物検疫の制度が導入された。また、肉用および乳用種の選抜交配、ウシウイルス性下痢・粘膜症(BVD−MD)や豚コレラ、パスツレラ症、炭そ病などのワクチン製造、獣医技術者の訓練制度、中央から地方への家畜衛生ネットワークの構築が行われた。

 また、この間、ヨーロッパ由来のノルマンやシャロレーといった品種に加え、インド原産の熱帯性のシンドやオンゴールといった品種がベトナムに導入された。

 まずヨーロッパの品種が導入されたが、ベトナムの気候や飼料に適合できず、定着しなかった。こうしたことから、よりベトナムの条件に適合性の高い熱帯性の品種が引き続き導入され、在来種である黄牛との交雑などにより、現在まで飼養されている。


ベトナムで最も一般的な品種である黄牛


ライシンド牛(黄牛とインド牛の交雑種)の繁殖雌牛

 第一次インドシナ戦争(1946年〜1954年)の間、ベトナム民主共和国は、引き続き水牛、ウシの生産に力を入れた。水牛とウシの頭数調査が行われ、また新たな動物用医薬品製造工場が設立された。合わせて、家畜に対する防寒対策や住居から離れたウシ小屋の導入、塩蔵稲わらの給与法の開発なども行われた。この間は、水牛とウシは農畜産業目的だけではなく、戦場への食物、兵器、機器の輸送用として非常に重要だった。

 第一次インドシナ戦争後は、水牛、ウシはベトナムの北部での農耕用の役牛として重要視された。1960年から、水牛とウシの所有権が、個人から国家に移った。また、1965年には主要な州における獣医ネットワークの設立が始まった。さらに、1956年以降、畜産学や獣医学に関する大学や研究機関が設立された。

 酪農も重要視されるようになり、1960年から1968年にかけて、中国やキューバからホルスタイン種が輸入された。

 ベトナム戦争後、家畜は国有化され、共同で飼養されていた。そして、村の小規模農場は、より大きい農場に合併されたが、これにより、水牛やウシの生産に多くの問題が生じた。共同農場では十分な飼料給与と飼養管理が行き届かなくなった。さらに、多くの農場が破産するとともに、水牛やウシの飼養頭数も減少した。ワクチン接種の助成金の廃止はワクチン接種の減少を引き起こし、その結果伝染病が発生した。

 1979年10月になされた国家決議や1981年1月に発行された政府指令により家族経営に基礎をおいた生産システムが奨励されることとなり、水牛とウシの頭数は再び増加に転じた。

 1981年から現在に至るまで、水牛とウシは家族農場と国有農場の両方で飼養されている。今も残る国有農場は大規模農場が多く、畜産物の生産以外に、繁殖牛の供給基地といった目的を有している。一方、家族農場が生乳や食肉の市場への供給に大きな役割を果たしている。最近は中規模農場も見られるようになったが、酪農、肉牛、水牛のどの部門でも、大部分は1件当たり1−5頭の小規模農家で飼養されている。


(2)国家計画における酪農・肉牛産業
 ベトナムは、社会経済開発戦略として10年単位の長期計画を定め、その実施のために5年単位の計画を策定している。現在は、2001年に策定された「2001年−2010年社会経済開発戦略」の実現に向けて、10年計画の後期分として2006年に策定された「2006−2010年 5カ年社会経済開発計画」が実施されている。

 これらの計画において、酪農は、2006年の11万3千頭を2010年には20万頭に増頭することとしている。また、生乳生産量は、2006年の21万6千トンから2010年には35万トンに増加させるとしている。

 このために、現状で優位な酪農地域での中小規模の酪農家での生産を奨励することとしている。また、地方政府に農地の一部での飼料作物の生産を振興している。さらに、乳質や生産性といった遺伝的改良も進めることとしており、こうした国家酪農育種管理システムが計画達成に向けて重要であると考えられる。

 肉牛に関しては、2006年の651万頭から2010年までに800万頭まで増頭することとしている。これに伴い、牛肉生産は2006年の15万9千トンから2010年までに25万トンに増加させるとしている。

 このために、品種改良と品種の選択、栄養学や飼養管理の研究の実施と、酪農同様中小規模の生産農家における高品質牛肉の生産を振興している。また、酪農同様、地方政府に、農地の一部での飼料作物の生産や産業的肉牛農家の設立を促進している。さらに、遺伝的改良に加えて、安価な飼料資源による肥育技術の向上が重要とされている。こうした振興策により、牛肉の生体からの歩留まりを、2006年の32%から2010年には36%に向上させるとしている。

 併せて、繁殖用種牛の利用や家畜や飼料作物の育種計画、研究開発、飼養管理や生産振興などに関する法や規則も整備されている。


(3)酪農・肉牛産業の現状
ア 酪農
 生乳の集乳、加工および販売のシステムは、後述する肉牛産業に比べ、専業化が進んでいる。

 加工業者は集乳ステーションを酪農地域に自前で設置していることが多く、生産者が自ら生乳をステーションに運ぶケースや、加工業者が集乳するケースがある。生乳は品質検査を経て冷蔵タンクに入れられる。こうした生乳はさらに加工場に集められ、加工されて小売店やスーパーマーケットに配送される。

 生乳と乳製品の衛生基準は政府機関と加工業者の両方により厳密に適用されている。また、加工場も少ないので、生乳および乳製品の品質管理は牛肉製品に比べてはるかに容易である(図2)。

図2 酪農の流通経路

イ 肉牛産業
 肉牛と水牛の産業構造は非常に類似しているので、以下の「肉牛」には水牛を含むものとする。

 肉牛は農家から仲介者の援助により家畜商に渡り、家畜商から家族経営のと畜場や食肉処理場に販売される。と畜場、食肉処理場は、小売業者にも直接消費者にも販売する。


発展段階の大規模酪農経営の例


ミルキングパーラー


米国から輸入されたアルファルファ

 肉牛は生体重ではなく、見積もりの肉の歩留まりと品質によって値段が付けられる。

 このように、牛肉の流通には多くの段階と関係者がいる上、これらの関係者が地域限定的に、また一時的に流通に携わることが多いことから、必ずしも区別は明確でないことが多い。また、関係者の多くが肉牛や牛肉以外に経済活動をしており、専門化は進んでいない。同一の関係者が複数の役割を果たすことも多い(図3)。

図3 肉牛産業の流通経路

 ホテルやスーパーマーケットといった高品質牛肉の市場には、豪州、ニュージーランド、米国といった国からの輸入牛肉が仕向けられる。

 この市場はまだ小さいが、経済成長に伴って急速に拡大することが期待されている。

 政府による食品衛生の規制はあるが、肉牛の価格の調整は行われていない。しかしながら、肉牛の大部分が家族経営のと畜場で十分な衛生条件とは言えない施設でと畜されているため、常に食品衛生には注意が払われている。また、地方公務員は、と畜場の周囲の環境基準の監督も行っている。

 ○非専業肉牛農家
  肉牛の大部分は非専業農家で生産される。肉牛の大部分は人口の多い集約農業地域で飼養されており、集約農業システムの一部となっている。こうした農家が自ら肉牛の取引を行うことはほとんどない。肉牛は農作業用のけん引や運搬、肥料の供給元や重要な催事のための換金手段などといった多くの目的のために飼養されており、最小限の世話しかされていない。こういった農家にとって、1〜2頭の繁殖雌牛と1〜2頭の子牛といった、2〜4頭の肉牛は一家の財産の大きな要素を占めている。こうした農家は、飼養頭数や子牛を販売する月齢を調整することで、経営の柔軟性を保っている。


最も一般的な1〜2頭飼養している小規模農家


家族経営の肉牛農家の一例


牛はけん引力の動力源としても飼養される


小規模農家での牧草生産

 ○準専業肉牛農家(5〜50頭規模)
  これらの農家は、地方の高地や周辺地域に多い。肉牛は荒れ地や森林の周辺に放牧されており、粗放な飼養管理をされている。

  一方、集約的な地域で、肉牛を肥育して販売している準兼業農家も見られる。こうした野生の草地を基盤とする経営から栽培草地を基盤とする経営に移行する準兼業農家は増加している。


放牧風景

 ○専業肉牛農家
  飼養頭数が50頭以上。多くの場合肉牛飼養の専門家か会社である。多くは個人経営だが、公的企業に属しているケースもある。専門家の経営では、舎飼で新鮮な牧草やサプリメントといった良質の飼料を、決められた時間に給与している。

 ○村の仲介者
  村の内外での、農家間や農家と家畜商の間での肉牛の取引を仲介する。売買の希望者や市況の情報を基に、仲介手数料で生活しており、売買には参加しない。

 ○市場の仲介者
  家畜市場で売り手と買い手を集めて、価格形成の役割を果たす。仲介手数料で生活しており、売買には参加しない。

 ○家畜商
  家畜を購入し、ほかの農家や家畜商、と畜場に売却する。売買に参加し、家畜の輸送も行う。投機買いや需給調整、肥育目的で売買することもある。売り手である農家にとって現金収入の窓口として重要である。

 ○家族経営のと畜場、食肉処理場
  肉牛を購入し、と畜して牛肉と副産物を広く販売する。また、市場の運転資金の主な供給源でもある。需給を調整するためにしばしば生体を飼養することもある。多くは冷蔵かどうかにかかわらず、食肉の保管場所を有せず、昔ながらの機材でと畜をしている。

 ○肉と副産物の購入者
  食肉処理場から、卸売や自分で使用するために生産物を購入する。

 ○小売業者
  小売市場の販売者や露天商、屋台、食肉加工業、レストラン、スーパーマーケット、ホテルなどで消費者に販売される。

ウ 酪農と肉牛産業の関係
 ベトナムでは、ほとんどすべての乳用雄子牛が1週間の初乳投与期間が終わるとと畜される。

 ベトナムでは、牛肉生産のための乳用雄子牛の育成は、肉用牛と乳用雄子牛の肉質による価格差がなく経済効率が低いため、現状では広くは行われていない。

 すなわち、ベトナムでは、子牛肉と牛肉の価格差がほとんどなく、また、ヒレ肉が1キログラム当たり4.5〜6.0ドル(約540〜720円:1ドル=118円)となっており、牛肉の価格が非常に低い。他方、生乳農家販売価格は1キログラム当たり0.3ドル(約36円)と比較的高く、外国との競争力もある。従って、子牛肉の生産のために乳用雄子牛に生乳を給与して余計に飼養するのは、生乳が餌の一部であるとしても、子牛肉の価格が生産費に見合わないのが実情である。また、代用乳は国内では生産されておらず、輸入代用乳も高価なために、代用乳の給与による乳用雄子牛の育成も利益がない。したがって、牛肉生産のための乳用雄子牛の育成は、酪農家、肉牛農家のどちらでも行われていない。

 なお、農家が自分の経営するレストランに子牛肉を供給するために、収益性とは別に乳用雄子牛を小規模で育成している農場もある。


5 アセアン自由貿易協定などに向けた将来戦略

 ベトナムは、社会主義体制下における市場経済導入を積極的に進めており、国際的には、1995年のアセアンへの加盟に続き、1996年にアセアン自由貿易協定(AFTA)に加盟した。また、2007年1月には、WTOの正式加盟国となった。

 ベトナムにおける酪農・肉牛産業がこうした国際化に耐え得るとともに、収益性の確保と貧困削減を図るため、ベトナム政府は以下の政策と戦略の基に酪農・肉牛産業を振興している。

(1)競争力のある畜産物の生産を促進する。
  このために、政府は水牛とウシの品質を高めるための育種研究に投資する。品種が改良されれば牛群の生産能力が向上し、生産費が削減されるか生産物の競争力が向上する。

(2)各区域の優位性を効率的に利用し、大規模商業製品生産地域を創出するために、地理的区域ごとに牛群を再構築する。
  大量に商業的に製品を生産する地域を創出することにより、畜産物の生産と加工に対する投資が促進される。その結果高付加価値畜産物が生産され、競争力と収益性が向上する。現在、すべての州が家畜、家きんの生産の再構築計画を有している。

(3)内需向けのみならず、将来の輸出を見越した、品質、衛生、食品安全基準を満たす近代的な設備を持つ新しいと畜、食肉処理を行う事業を導入、建設する。
  ベトナムのWTOへの公式加盟に伴い、食品の衛生面や安全面といった品質要件が、国内産品が輸入品と競合する上で、ますます重要になっている。さらに、収入の増加に伴い、国民はより衛生的で安全な食品に価値を見出している。従って、衛生、安全といった品質や食品の競争力の改善が重要であり、新たな食肉処理場の導入、建設はこの解決策の一つである。

(4)低金利融資、畜舎の建設や草地造成に必要な長期土地利用権、そのほかの奨励策を通じた、組織や個人の畜産物の商業的生産に対する投資を奨励する。

(5)農家の訓練コースの提供、収入を確保しつつ持続可能な大家畜の実証展示農場の建設と拡大、生産者への牛肉や酪農の市場情報の提供、安全で衛生的な食品生産のためのバイオセキュリティ手法の知識と情報の宣伝といった普及活動を促進する。

(6)伝染病のまん延を防ぐために、発生リスクが高い地域から安全な地域までの家畜の輸送の管理を強化する。
  全国の検疫所を人的面と施設面の両面から強化するために、動物検疫システムに対して投資される。

6 おわりに

 ベトナムの肉牛産業は、これまでの役牛利用の一環から、食肉産業へ脱皮する過程にあるといえる。また、酪農業は、ベトナムにとっては新しい産業であり、諸外国の技術支援などもあり急速に発展しているが、農家の酪農飼養管理技術の向上を伴わない急速な発展は、農家の経営危機にも通じる可能性がある。

 ベトナムにおいては、国内経済の発展と国民生活の向上により、畜産業は国家計画上重要視されているが、計画の達成には、飼料の安定的確保、農家の食品産業としての畜産に対する意識改革、飼養管理技術の向上など、解決すべき課題も多い。また、食の安全への関心が高まっている現在、と畜場、食肉処理場の改善も必要とされている。

 ベトナムは、これまで輸出余力がなく、また、家畜伝染病の発生などもあって、畜産物貿易上大きな役割を演じていなかったが、国内経済の発展や生産力の向上といった観点から、今後何らかの大きな役割を演ずる可能性も考えられる。計画達成の可能性を含め、今後も酪農、肉牛産業を含むベトナムの畜産業の動向に注目していきたい。

 また、本稿の執筆に当たり、御協力頂いた(独)国際協力機構(JICA)ベトナム中小規模酪農生産技術改善計画プロジェクトの森山浩光専門家、取材に応じて頂いたベトナム国立畜産研究所 Dinh Van Tuyen氏に、この場を借りて厚く御礼を申し上げる。


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