WTOドーハ・ラウンドの事態打開に向けEU、米国、ブラジル、インドの4カ国によるG4閣僚会合がドイツ・ポツダムで6月19日から行われたが、農業問題などで互いの歩み寄りが見られず21日決裂した。これを受けて、欧州委員会、EUの農業団体は次のようにコメントを出している。
EU、G4閣僚会合で農業分野の更なる譲歩を提示
EUでは、農業分野でこれまで主に、以下の譲歩を提示してきた。
・他国が同等の対応を行うことを前提に2013年までにすべての形態の輸出補助金を撤廃
・貿易に対しわい曲的な農業補助金を70%以上削減
・農産物の関税を平均で約50%削減
・重要品目である牛肉について、世界最大の牛肉輸出国の一つであるアルゼンチンの年間輸出量に相当する76万トンの新たな輸出機会の提供
・輸出量について、砂糖は500万トン、生乳は800万トン、家きん肉は現在の25%に縮小し、他国が新たな市場へ参入する機会を創設
なお、EUはG4閣僚会合での均衡のとれた合意に向けて、後述の農業団体のコメントにあるように、この提示以上の提案を行って交渉に臨んだとされている。
G4閣僚会合終了後の反応
・欧州委員会
マンデルソン委員(通商担当)は6月21日、報道関係者との会見で、「EUは農業分野において大きく譲歩する用意をしていたが、その見返りとなるような、非農産物市場の関税の引き下げなど実質的または商業的な価値のある変更を、ブラジル、インドは全く示さなかった。見返りがほとんどない状況で譲歩をするわけにはいかなかった」とコメントしている。
また、フィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は6月22日、会合の決裂について、EUはG4としての合意に向け最大限の努力を行ったことを強調した上で、「ドーハ・ラウンドにとって非常に残念な結果となった。歴史的な機会を失った」とコメントを出している。さらに、失われた機会について、「EUが二国間協議においてドーハ・ラウンドで提示した水準の提案をすることは決してなく、失われた機会を回復することはできないであろう。今後の交渉過程でよりよい結果が出ることを願っているが、楽観視はしていない。このラウンドが失敗に終われば、すべての今まで提示された条件などが失われ、EUにとっても途上国にとっても望ましくない」との悲観的なコメントを出している。
・農業団体
欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会(COPA/COGECA)は、6月25日、この決裂を受けて、「WTOの交渉において欧州農業者は多大な努力をしている。しかし、この交渉でEUが得たものはまだ何もない。今回の会合の最終局面では、マンデルソン委員は欧州農業者を犠牲にして更なる譲歩を行った。これは、欧州委員会が理事会から与えられた交渉権限を越えるものであることは明らかである。これまでのEUの提案は欧州農業者に多大な損失を与えるものであったが、今回の更なる譲歩は、EUにおける食肉やほかの食品の生産の壊滅的な縮小を意味する」としており、WTO交渉での合意には賛成であるがそのために農業分野で譲歩を重ねるべきではないとして、欧州委員会の交渉の対応について非難するコメントを出している。
また、EU最大の農業国であるフランスでは、同国最大の農業組合である農業組合経営者連合会(FNSEA)が、「農業分野において今回の会合の決裂はカンクン決裂以来の失敗である。マンデルソン委員の「更なる譲歩」という交渉方法については非常に残念に思う。農業・非農産物・サービスの分野で均衡の取れた方法を探すべきである。農業分野における不利な合意はEU、開発途上国双方にとって好ましくない。全世界の農業を保護する政策をわれわれは必要としている」と、COPA/COGECAと同様、農業交渉における欧州委員会の交渉の対応を非難するコメントを出している。
なお、EUでは、G4閣僚会合は決裂したものの、ドーハ・ラウンドの合意に向けてジュネーブではWTO加盟国と緊密に交渉していきたいとしている。
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