EUの酪農関連制度の今後のあり方


 欧州委員会のフィッシャー・ボエル委員(農業・農村開発担当)は6月26日、ベルギーのブリュッセルで開催された「乳製品市場の将来像」と題するパネルディスカッションにおいてEUの酪農関連制度の問題点と今後の見直しの方向性について講演した。同委員の発言のポイントは以下のとおり。


制度の見直しの背景

 EUでは、2003年の共通農業政策(CAP)改革を経て、2005年より生産者に対する直接支払いの制度を、それまでの品目ごとの生産量に応じた直接支払いから、生産とは切り離された生産者を単位とした直接支払い(デカップリング)へとその大部分を移行させている。この変更には、生乳生産者も対象となっており、環境保全につながる農地管理を行いつつ、そこで生産する農産物については、量ではなく質、つまり、市場動向に応じ、需要に合った物を、生産者の創意工夫で生産することが求められている。この量から質への転換は、需給を調整し、市場価格を下支えする乳製品の輸出補助金や介入買入制度などの必要性が以前に比べ低くなったことを意味する。

 また、最近の乳製品の好調な価格や需給の動向も酪農関係制度の見直しの追い風となっている。乳製品の輸出補助金については、昨今の国際的な乳製品需給のひっ迫による価格高騰を背景に、現在、制度導入以来、初めて全品目でゼロとなっている。また、介入買入在庫についても粉乳在庫はゼロ、バター在庫についてもほぼゼロとなっており、現時点では、需給調整や価格支持のための制度を利用する機会が減少している。


乳製品の輸出補助金

 2005年12月に開催されたWTO香港閣僚会合において、EUはすべての輸出補助金を2013年までに廃止することを約束した。現在、このWTO交渉は先行きが不透明な状況となっているが、交渉結果いかんにかかわらず、EUは乳製品の輸出補助金を2013年までに廃止するとしている。なお、前述のとおり、現在、乳製品の輸出補助金はすべてゼロとなっているが、これは国際価格などとの関係で一時的なものである。


乳製品の介入買入制度

 乳製品の介入買入制度の今後のあり方については、輸出補助金の今後のあり方に密接に関連している。これは、以前であれば介入買入による在庫を、輸出補助金をつけてEU域外に輸出し、域内需給の調整・市場価格の下支えをする構図となっていたためである。

 同委員は、輸出補助金を廃止するならば、介入買入制度の今後のあり方についても答えが導き出されるとしており、明言はしていないものの、2013年までに廃止も含めた大きな制度変更を示唆している。


生乳クオータ制度

 EUでは、生乳市場の需給バランスを保つことを目的として、国別に生乳生産の割当枠を定め、これを超過した分についてはペナルティとして生乳指標価格の 115%の課徴金を課す制度を実施している。本制度については、先のCAP改革において2014/15年まで継続することとなっている。

 本制度は2015年をもって終了すべきであり、その後の延長は考えるべきではない。現在の生産者の収入は、大部分がデカップリングにより支持されているが、このデカップリングの本来の目的からすれば、生産量を管理すべきではない。つまり、生産者は市場ニーズに合わせて、独自の判断で生産量を判断すべきであり、クオータ制度はこれを阻害している。

 2008年のヘルスチェック(制度検証)では、2015年の制度廃止に向け、需給などへ影響を及ぼさない「軟着陸」が可能となる移行措置の検討が焦点となる。

 欧州委員会では、2003年の改革を経て2013年まで実施する現行のCAP制度について、これらが適切に機能しているかを2008年にヘルスチェックし、必要があれば効果的に機能するよう簡素化や段階的な廃止などの制度見直しを行うとしている。


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