生殖器感染症の発生が続く
アルゼンチンの中西部に位置するブエノスアイレス州は、放牧が盛んに行われている大草原地帯であるパンパ地帯の1州である。同州の北西部は放牧肥育や穀物生産に向いた優良農地が広がっている。一方、同州の中東部は湿地帯のため、同地域では繁殖雌牛の放牧管理を中心とした小規模経営(本稿では「牛飼養頭数500頭以下の経営」とする)を多く見ることができる。
同地域での繁殖管理は、種雄牛を繁殖めす牛群に放牧する牧牛による自然交配がほとんどである。このため、衛生管理に十分な注意が払われていない特に小規模農家において、トリコモナス病と牛カンピロバクター症(以下「生殖器感染症」)の疾病の発生が続いている。ブエノスアイレス州農務省は6月7日に、生殖器感染症を持つ種雄牛の摘発を目的とした2007年度種雄牛計画を公表した。
これまでの成果
種雄牛計画は2004年から開始され、今年で4年目となる。2006年までの種雄牛計画では、ブエノスアイレス州中東部の湿地帯の特に小規模経営を対象に、所有する種雄牛の生殖器感染症の検査の実施と衛生管理の徹底のための講習会の開催を行ってきた。
2006年の検査結果を見ると、検査を行った種雄牛のうち、3%がトリコモナス病に陽性反応を示し、2%が牛カンピロバクター症に陽性反応を示している。生殖器感染症の陽性反応を示した種雄牛の所有者に対して、州政府は廃用を命令することはできないが、廃用を促進するため、種雄牛更新のための低利融資を講じている。
なお、雄牛計画への参加は任意であり、小規模経営が所有する種雄牛のうち15頭までは生産者の負担なしで生殖器感染症の検査を受けることができることとなっている。
ブエノスアイレス州農務省によると、「州中東部の湿地帯の小規模経営が所有する種雄牛は約75,000頭と見られ、昨年は約17%に当たる12,814頭の検査を行った。州政府の取り組みなどにより、多くの経営において衛生管理の重要性が認識されるようになっており、種雄牛計画への参加頭数も年々増加している」とのことである。
2007年度種雄牛計画
今年度の計画では、
(1) 対象農家の拡大(これまでブエノスアイレス州中西部の湿地帯を対象としていたが、今年度からブエノスアイレス州南部も加える)
(2) 生殖器感染症を持つ種雄牛の更新費用の低利融資(小規模経営は年利7.5%で1.5年間据置、中規模以上の経営は年利8.0%で1年間据置)
の対策を中心として、生殖器感染症対策を進めている。
ブエノスアイレス州農務省によると、「穀物生産が伸びている北西部を除いて、畜産は州の主力産業である。しかしながら、技術導入に関心の薄い経営では、約2haに1頭という効率の良くない放牧管理が行われている。これらの経営に対して、飼養管理や衛生管理に関心を払うように技術指導を行うことにより、機械施設を整備しなくとも、容易に約1haに2頭という効率の良い放牧管理が行えるようになる」とのことである。
アルゼンチンであってもわが国と同様に、他産業が育ちにくい地域では、従来産業の効率化を促しながら、地域産業の基盤強化を図る必要があり、従来産業の育成に向けた政策が重視されていることがうかがわれる。
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