米国における貿易促進権限(TPA)失効をめぐる動向


 米国において米議会が、貿易交渉を促進するため、同大統領に与えていた貿易促進権限(TPA)が7月1日、失効した。TPAとは、行政府が議会から通商協定に関する交渉権限を与えられ、政府の通商交渉の合意内容に関し、議会にその賛否のみを無修正で一括採決させることが出来る権限である。米国では75年以降、94〜2002年までTPAが失効していた期間があり、今回、約5年ぶりに米政府はこの権限を失うこととなった。


米農務長官・USTR代表はTPA更新の必要性を強調

 ジョハンズ米農務長官は6月29日、「TPAは、米国の貿易交渉における地位を高め、この権限を保有しているからこそ、米国農業者へ発展の機会を提供する合意が達成可能となる。私は、引き続きドーハ・ラウンドを通じ市場アクセスの拡大を目指した交渉に専念している。これら交渉の成功のためにも、TPAはキーポイントとなる」と述べ、種々の貿易交渉における米国の地位を確保する上でも、米議会によるTPA再承認の必要性を訴えた。

 また、シュワブ米国通商代表部(USTR)代表は同日、「競争国が、世界中で貿易協定を推進する中、米国は傍観者であってはならない。米国はこれまでにも、新たな市場拡大のためTPAを活用してきており、米大統領は、貿易を最大限推進するため、TPAを持つべきである。ブッシュ政権と議会の指導者は、ペルー、コロンビア、パナマ、韓国とのFTA承認に向けた超党派的な方針を見出してきた。私は、この協力の精神が、TPA更新に向けた取り組みを導くことになると期待している」と述べ、TPA更新に向けた意欲を示した。


畜産・農業関係団体はTPA更新に関するそれぞれの立場を表明

 全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、米議会に対しTPAの更新を要請している。グレッグ・ダウドNCBA首席エコノミストは、6月28日付同協会の会報誌の中で、「TPAは、米国と貿易協定を交渉する相手国に対し、(同協定が議会により修正されることはないとの)信頼性を確保する上でも重要な要素となる。貿易協定を通じた市場アクセスの拡大や関税の削減は、肉牛生産者の繁栄のための最善の方策であることから、貿易協定の促進に向けTPAは必要である」とし、TPA更新を支持する立場を強調した。

 また、米国最大の総合農業者団体であり、大規模経営も含めた幅広い農業者を会員としている全国ファーム・ビューロー連合会(AFBF)も、TPA更新を支持する立場を表明している。ボブ・ストールマンAFBF会長は、ドーハ・ラウンドの大筋合意に影響を与えると見られていたG4閣僚会合が決裂した同月21日、「われわれは引き続き、米国産農産物のため、二国間および多国間貿易協定を通じ、より一層の市場アクセスの拡大を推進するとともに、米国農業の輸出拡大にとって不可欠なTPA更新を強力に後押しする意向である」と述べた。

 一方、会員に小規模の家族経営農家を多く抱える総合農業団体である全国農業者連盟(NFU)は、従来のTPAは更新せず、新たな貿易政策の検討を求める立場を表明している。トム・ブイスNFU会長は同28日、最近の国際貿易をめぐる情勢に関し、「ドーハ・ラウンドの決裂やTPAの失効は、米議会が、家族経営農家の利益を優先させる貿易政策を作り上げる新たな機会を創出する。現行の貿易政策は、適正に機能しているとは言えず、われわれは、最近の情勢を後退としてではなく、新たな機会として捉えなければならない。今後の貿易交渉では、公正な競争の場を確保するため、貿易相手国に対しても、米国と同等の高水準の労働基準、環境基準および安全・衛生基準への対応を要求しなければならない」とする声明を公表した。


米国、韓国とのFTAに調印

 このような中、USTRは6月30日、米韓両政府は両国の自由貿易協定(FTA)をワシントンで調印したことを公表した。米韓FTA交渉は、昨年6月以降、8回の公式なラウンド交渉を経て、本年4月1日に合意に至った。

 シュワブUSTR代表は、今回の公表に当たり、「米韓FTAは、米国にとって、ここ20年間の中で最も重要なFTAである。私は、この協定の議会による批准に向け、引き続き両党議員とともに取り組むことを期待している」と述べた。

 一方、米上院財政委員会(米上院の貿易政策全般をつかさど委員会)のボーカス委員長は同月29日、今回の調印に先駆け、「同委員会は、米国産牛肉に対し、韓国市場が完全に開放されるまで、米韓FTAに関する議論は行わない」とする見解を改めて表明しており、米韓FTAの議会承認に向けては難航も予想されている。


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