原産地の義務表示化を前にした米国食肉関係者の動き


 2008年10月からの原産地表示の義務化を一年後に控え、米国農務省農業市場流通局(USDA/AMS)はその実施規則案に対する意見の受付を再開している。一方、食肉団体は、次期農業法において現行法における義務表示の規定を一部修正するよう、議会などへの働きかけを強めている。


2002年農業法に基づく食肉の原産地表示の義務づけはこれまで二度にわたり先送り

 米国では、これまで、一部の輸入品を除き、食品の原産地表示は義務付けられていなかった。しかし、2002年5月に成立した現行農業法において、食品のうち小売業者が販売する牛肉、羊肉、豚肉、魚介類、生鮮農産物および落花生について、原産地表示を義務づけることが定められ、実施に向けた手続きを進めることが決定された。

 当初、その実施手続きを定めた2002年補正歳出法では、2004年9月30日までに農務長官が原産地表示に関する具体的な規則を定めて公表し、直ちに実施に移すこととされていた。このため、USDA/AMSは、2003年10月30日に義務的原産地表示の実施規則案を公表していた。

 ところが、米国議会の主導権が民主党から共和党に移る中で、もともと原産地表示の義務化に反対だった食肉関係団体は、その実施を阻止するよう議会への働きかけを強めていった。この結果、魚介類を除き、食肉をはじめとする対象食品の原産地表示の実施は、2004年包括歳出法により2年、2006年農業食品医薬関係省庁歳出法によりさらに2年と、これまで二度にわたり先送りされてきた。現在、魚介類を除く対象食品は、2008年9月30日まで原産地表示の実施が猶予されている(魚介類については、USDA/AMSが2004年10月5日に公表した暫定最終規則に基づき、既に原産地表示が義務化されている。)。


農務省は実施規則に対する意見提出の受付を再開

 このような中、USDA/AMSは6月20日付けの官報で、2003年10月30日に公表した義務的原産地表示の実施規則案に対する意見を8月20日までの60日間受け付けることを公表した。

 この中で、USDA/AMSは、2004年10月5日に定めた魚介類の暫定最終規則と同様の規則が食肉や生鮮農産物などに適用できるかどうかについて、全般的な意見を提出するよう求めている。具体的には、義務表示の対象から除外される「加工食品」の定義、米国内で二次加工が行われた食品の原産地の扱い、容器包装食品における表示の方法、小売店や中間流通過程における証拠書類の保管義務期間、規則の施行前に生産された食品に対する移行期間のあり方などが論点として明示されている。

 なお、米国産食肉とは、米国内で生まれ、肥育され、かつ、と畜されたものに限ることが法律により明記されている(ちなみに、日本では、最も生育期間の長い国を原産国として表示することとされている。)。


食肉関係団体は現行法の問題点を列挙し再び議会への働きかけを強化

 これを受け、食肉団体は次期農業法において、現行法における義務表示の規定を一部修正するよう議会などへの働きかけを強めている。

 米国食肉協議会(AMI)は、議会情報誌や中西部の主要紙などに原産地表示の義務化に反対する意見広告を掲載し、2002年農業法で義務づけられた原産地表示は、コストがかさみ、貿易阻害的で、混乱を引き起こしかねないものだとして、議員に法改正を求めるよう読者に訴えている。特に、(1)原産地表示は食品の安全性とは全く関係ないこと、(2)原産地表示は消費者のニーズを踏まえて自主的に行われるべきものであること、(3)原産地表示に伴う初年度コストはUSDA推計額で24億ドル(2,880億円:1ドル=120円)に上ること、(4)現行法は家きん肉や外食販売を表示対象としていないなど不完全なものであること−などを強調している。

 また、全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、会員向けe-mail情報を通じ、議員に対して現行法の問題点の修正を働きかけるよう呼びかけている。特に、(1)証拠書類の内容や保管義務が不明確であること、(2)法律の施行前に生まれた牛の表示に猶予規定が設けられていないこと、(3)牛の履歴を個別に把握していない生産者への免責要件が定められていないこと、(4)鶏肉、加工品、外食仕向けなど、食肉消費の75%が義務表示の対象外になっていること、(5)生産コストの上昇により離農が進展すること−などを、義務化に伴う具体的な問題点として挙げている。


都市部のメディアなどは食肉業界の動きに批判的

 これに対し、都市部のメディアや比較的小規模の農業者を会員とする総合農業団体のファーマーズユニオンなどは、中国からの汚染食品輸入問題などによる消費者の関心の高まりを背景に、これまで2度にわたり原産地表示の義務化が先延ばしされてきたことを批判しつつ、その早期完全実施を訴えている。

 特に、7月2日付けのニューヨークタイムズはこの問題を一面で取り上げ、食肉の原産地表示が2002年農業法の成立以降5年間も実施されてこなかったのは、食肉業界が当時の議会多数党であった共和党に多額の献金を伴うロビイ活動を繰り広げた結果であるとした上で、昨年の中間選挙で民主党が議会多数党となり、表示の早期義務化に前向きな議員が要職についている状況を考えると、原産地表示の義務化がこれ以上先送りされる可能性は小さくなりつつあると分析している。

 このような中、食肉業界の中には、表示の義務化は避けられないとの見方から、例えばひき肉における複数産地の列記を認めるなど、現実的な実施規則の策定に向けた働きかけを模索する動きも出始めている。


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