ミズーリ大、新エネルギー法による農畜産物需給への影響を分析


 ミズーリ大学の食料・農業政策研究機構(FAPRI)は2008年1月10日、昨年12月に成立した新エネルギー法(2007年エネルギー自給および安全保障法)の実施による、バイオ燃料および農畜産物の需給への長期的な影響を分析した研究報告を公表した。


再生可能燃料基準の引き上げの効果と、租税減免措置が延長された場合の影響を分析

 この研究は、新エネルギー法のうち、トウモロコシを原料とするエタノールの使用義務量の引き上げ(2015年に150億ガロン)とバイオディーゼルの使用義務量の新設(2012年に10億ガロン)に注目し、これにより昨年1月にFAPRIが公表した農産物長期見通しの2011年から2016年の平均予測値がどのように変化するかを分析したものである。

 また、新エネルギー法の制定過程で法案から削除された、エタノール混合燃料業者などに対する租税減免措置(エタノール1ガロン当たり51セント。2010年末まで。)とエタノールに対する輸入税(エタノール1ガロン当たり54セント。2008年末まで。)の延長にも注目し、これらが延長されなかった場合の影響についても同様に分析している。

 なお、今回の分析は、昨年1月の長期見通しの際に利用した経済的要素をそのまま適用したものであり、たとえば直近における先物取引価格や原油価格の高騰などの要因は反映されていないことに留意が必要である。

 注) 燃料用エタノールやバイオディーゼルの使用義務数量(再生可能燃料基準:RFS)の引き上げの詳細については、2月号海外トピックスまたは2007年12月27日付け海外駐在員情報:
http://lin.alic.go.jp/alic/week/2008/us/us20081227.htm
を参照。


トウモロコシのエタノール向け需要量は新エネルギー法の実施でさらに拡大へ

 この報告では、今回のエネルギー法が実施され、さらに租税減免措置と輸入税が延長された場合の、2011年から2016年の平均値を、従来の予測値(旧エネルギー法の下で、租税減免措置と輸入税が継続されることを前提とする)と比較している。

 トウモロコシを原料とするエタノールの年間生産量は、昨年1月の予測値(117億1千万ガロン)を23.8%上回る145億ガロンになるとしている。また、エタノール原料向け供給数量は、これまでの予測を10億8千万ブッシェル上回る52億2千万ブッシェルに増加する一方、輸出数量は従来の予測を3億2千万ブッシェル下回る20億5千万ブッシェルにとどまるとしている。さらに、トウモロコシの農家販売価格は、需要の増大に伴って1ブッシェル当たり26セント上昇して3.37ドルになるとするとともに、トウモロコシの平均作付面積は従来予測を205万エーカー上回る9,190万エーカーになるとしている。

 一方、バイオディーゼルの生産は、従来の予測を4億5千万ガロン上回る9億6千万ガロンになり、原料用大豆油の需要もほぼ倍増の56億4千万ポンド(255万8千トン)になることから、輸出量は従来の予測を75.9%下回る4億4千万ポンド(20万トン)と予測している。また、大豆油の価格は1ポンド当たり46.64セント(キログラム当たり110円:1ドル=107円)と従来予測を35.8%上回るが、大豆の農家販売価格は1ブッシェル当たり61セント(キログラムあたり2.6円)上昇にとどまるとしており、同時に大豆ミールの予測価格も下方修正している。なお、大豆の作付面積はほとんど変化なく推移するとしている。

 さらに、畜産物のうち、肥育牛や肉豚については飼料価格の高騰の影響から生産が減少して販売価格がわずかに上昇すると見込まれる一方、飼料中の大豆ミールの割合が比較的高いブロイラーは生産が増加するとして価格がわずかに下方修正されている。しかし、耕種作物に比べると、国内の畜産への影響は大きくないとしている。

 注) トウモロコシや大豆の予測価格は最近の価格の動きから見ると低水準であるが、今回の試算は昨年1月の段階での経済状況を前提に、再生可能燃料基準の引き上げという要因を織り込んで試算したものであり、直近における原油価格の高騰などの要因は反映されていない。


原油価格の動向とバイオ燃料に対する優遇措置が今後の焦点

 さらに、この報告では、バイオ燃料に対する租税減免措置や輸入税が廃止された場合の影響についても試算している。

 これによると、新エネルギー法が成立していなかったという仮定の下で、バイオ燃料に対する優遇措置(租税減免措置と輸入税)が延長されない場合には、トウモロコシを原料とするエタノールの年間生産量は、昨年1月の予測値(117億1千万ガロン)を30.8%下回る81億1千万ガロンにとどまるとしている。一方、新エネルギー法が成立した状況下では、バイオ燃料に対する優遇措置が延長されない場合でも、トウモロコシを原料とするエタノールの年間生産量は140億7千万ガロンに達すると予測されている。

 FAPRIは、連邦政府による新たな義務数量の設定の効果を左右する要因として、原油価格の動向と、バイオ燃料に対する優遇措置の継続の有無を挙げている。その上で、仮に原油価格が「著しく高騰」した場合、トウモロコシを原料とするエタノールの生産量は、新エネルギー法で規定された水準を超える可能性が高いとしている。

 FAPRIは連邦議会の助成を受けて1984年に設立されたアイオワ州立大とミズーリ大の連合研究機関であり、毎年1月に農業市場の長期見通しを作成して議会に報告するなど、その活動は多くの政府・業界関係者から注目されている。

米国の2007年新エネルギー法による農畜産物需給への長期的影響
(2011年〜2016年平均値、2008年1月公表)


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