LIPC WEEKLY
【シンガポール駐在員 末國 富雄 10月10日発】 東南アジアのブロイラ ー産業は近年急速に生産を拡大しているが、一方で、在来種を使った地鶏産業も 根強い需要があり、高価格で取り引きされている。タイでは、地鶏交配種を使っ た地鶏産業が大規模に展開されており、日本からの引き合いもある。 東南アジアで出会った日本人の方々から、現地での鶏の味が日本でのそれと異 なると指摘されることが多い。恐らく、それは地鶏に由来するものであろう。地 鶏はブロイラーと異なり、遺伝的にも太りにくい性質のうえ、粗末なエサで長期 間飼育され、調理の直前にと鳥される。また、この長期間の飼育と、と鳥後から 食卓に出されるまでの時間の短いことが、味(食感)が異なる最大の理由である と思われる。 農家の周りでエサを探す地鶏は、東南アジアの代表的な風景である。しかし、 まとまった羽数の地鶏を飼育するには幾つかの問題を解決する必要がある。一つ は、ヒナの確保にある。地鶏は抱けるだけの卵を生むと、産卵を止めヒナをかえ す習性を持っている。このため、ふ卵を機械任せにする改良種に比べると、ヒナ の羽数は大幅に少ない。 もう一つはエサの原料にある。ブロイラーのような高カロリー高たんぱく飼料 は受け付けない。さらには飼育期間も、市場の要求するサイズになるまでに約3 カ月と、ブロイラーの2倍を要する。この期間に必要なクズ米などを確保しなけ ればならない。さらに狭い面積に多羽数を入れて飼育すると、互いにツツキあっ て傷つき、死に至るものも出てくるので、広い土地が必要となる。 タイで生産される地鶏は、ブロイラーの年間約7億羽に比べ、わずか4千万羽 程度と推定されている。しかも全体の飼育羽数はここ数年あまり伸びていない。 しかし、根強い需要から高値で取り引きされており、飼育を希望する農家は多い。 このため地鶏の分野にもインテグレーションを志向する企業が現れており、タナ オスリ・カイ・タイ社は、週当たり4万羽の準地鶏を生産するタイの大手である。 準地鶏というのは、純粋な地鶏ではなく、父親を闘鶏用の地鶏、母親に改良種の 雌を使っているためである。こうすることでヒナの生産が容易になる。ヒナ1羽 の価格は15バーツ(B、1B−約4円)で、ブロイラーの5割り増しである。 これを3カ月かけて体重を1.5s程度に飼育すると、1羽当たりで45B程度 で売れる。小売価格は、120B/sでブロイラーの2〜3倍もする。同社では、 契約に基づいてヒナ、飼料などを農家に供給し準地鶏の生産を行っているが、生 産の不安定が最大の悩みである。その原因としては、次の3点が指摘される。 1 政府が地鶏産業の振興に熱心でない。 2 農民に施設整備の低利資金の取得が困難である。 3 工業化の進展により農地利用が制限されている。 一方、需要の方は極めて堅調である。同社によれば、日本の貿易会社も同社を 訪問して地鶏を調査しており、最近のテスト結果も上々のようである。同社では 種鶏場を拡充する計画(1,200万B、16ha)で、95年5月に国家投資 委員会の承認を得ている。
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