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煙による被害、農業にも影響


【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 10月29日発】長引くインドネシアの
森林火災、焼き畑による煙(ヘイズ)は、周辺のマレーシア、シンガポールな
どの国々に大気汚染をもたらし、人間に呼吸器系疾患を発症させ、死者もでる
など大きな国際問題となっているが、この煙害は、人間以外の畜産などの農業
分野にも大きな被害を及ぼしている。

インドネシアのスマトラおよびカリマンタン島で焼き畑などによって発生する
煙は、毎年8月ら10月頃にかけて、南西風によって運ばれ、シンガポール、
マレーシアなどに少なからぬ大気汚染の被害を発生させている。しかし、今年
は、エルニーニョ気象による異常乾燥のため、森林にも延焼したことにより、
例年になく大量の煙が発生し、周辺各国は、大気汚染の大きな被害にさらされ
ている。

シンガポールでは、大気汚染指数(PSI)が24時間以上300を超えた場
合は、学校が休校となるといったヘイズ対策要綱を定めている。この指数は、
TV放送により常時掲載されており、国民に注意を呼びかけている。

また、マレーシアにおいてもPSIを独自に改良した大気汚染指数(API)
を定め、監視体制を強化しているが、9月19日には、サラワク州においてA
PIが600を超え、非常事態宣言がなされるなど、シンガポールよりも酷い
ヘイズの状況となっている。インドネシアでは、呼吸器疾患を発症し、死者も
でるなど、ヘイズは大きな国際問題に発展している。

 しかし、このヘイズは人間ばかりではなく、農業分野にも大きな被害を及ぼ
している。マレーシアの農業調査機関がまとめたヘイズが農業へ及ぼす影響に
関する報告によると、 APIが高くなるにつれて、農業への被害も拡大する
という。

ヘイズによる不快な天候と汚染された空気は、養鶏産業に悪影響を及ぼしてい
る。高密度のケージで飼養される多くの鶏は、煙中の浮遊微粒子により、呼吸
器系の疾患を引き起こすと同時に、抵抗力が弱まり、ついには呼吸困難に陥る
こととなる。また、脆弱な雛は、バクテリアに容易に感染しやすい状況となっ
ている。更に、鶏卵の生産量は、採卵鶏の成長の鈍化から、5〜10%落ち込
んでいる。この防御策として、養鶏農家などでは、鶏の抵抗力を高めるために
抗生物質、多種のビタミンを使用し、被害を最小限に留めている。

一方、畜産以外の農業分野においても、ヘイズによる日照および酸素不足は、
植物の光合成の過程に悪影響を及ぼし、水田耕作、野菜栽培、パームオイルな
どの生産量に減収を来すとともに、海中の酸素量が減少し、水産養殖、海洋植
物にも被害を与えている。

ヘイズは、毎年9月下旬から始まる北東のモンスーンの降雨により、焼き畑等
の火災が消し止められて治まるが、今年はモンスーンの到来が遅れていること
から大きな被害となった。なお、予報によると、モンスーンによる降雨は、
11月初旬頃まで遅れる見込みとなっている。



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