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【シドニー駐在員 藤島 博康 9月18日発】7月以来続く東南アジア諸国での 通貨動揺のあおりで、インドネシアを中心とした豪州の東南アジア向け生体牛輸出 は急減している。豪州肉牛市況への影響は少ないとみられるものの、近年、急成長 が続いた東南アジア向け生体牛輸出ブームに陰りがみえつつある。 豪州の生体牛輸出は、近年の経済成長を背景とした東南アジアでの牛肉需要の拡 大により、急成長を続けており、96/97年度(7月〜6月)の輸出頭数は前年 度より37%増の86万頭に上った。このうち、インドネシア向けは半数以上、東 南アジア向け全体では8割以上を占めており、牛肉不況に苦しむ肉牛産業のなかで、 東南アジア向けの生体牛輸出は唯一活況を呈していた。 しかしながら、タイバーツから始まった一連の東南アジア諸国の通貨危機により、 豪州の東南アジア向け生体牛輸出はここにきて急減している。 8月の生体牛の月間輸出頭数は、インドネシア向けが3割以上もの減少となった。 さらに、9月に入ってから、東南アジア向け生体牛の主要積出し港であるダーウィ ンからの生体牛輸出頭数は、以前の水準より半減したと伝えられている。 豪州食肉畜産公社(AMLC)によると、通貨安にともなう現地での輸入生体牛 価格の上昇率は少なくも30%に上るとしており、これに輸入インフレなどによる 個人消費の切りつめも加わり、豪州産生体牛への需要は急速に減退しているとみら れる。 このため、代金回収の停滞や、チャーター船の維持コストなど豪州サイドの輸出 業者の一部は多大な損失を被っているとされる。契約の取り消しなど、現在も、混 乱は続いており、回復までには2、3ヵ月を要するとみられている。豪州業界内に は、これを契機に東南アジア向け生体牛輸出は今後、急減するとの見方もあるが、 基本的には経済の回復ペースがカギとなるとみられる。 一方、肉牛供給が引き締まる方向にあることに加え、牛肉輸出が順調に回復して いることから、生体牛輸出の減少による豪州肉牛市況への影響はほとんどなく、肉 牛価格は今後も上昇傾向を維持するとの予想が強い。また、東南アジア向けの生体 牛供給基地であるクインズランド州に所在すると畜加工場の一部には、これまでの 生体牛輸出増によると畜牛不足が緩和されるとし、好意的に受け止める向きもある。 むしろ、肉牛生産者を中心とした最大の関心事は今世紀最大とも予想されるエル ニーニョ現象である。過去にみられたように、東部に干ばつをもたらすようなこと になれば、牛肉不況からようやく脱しつつある生産者に、再び大きな打撃を与える こととなり、生産者にとっては今後の天候がもっとも気になるところだ。
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