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米、牛肉の安全性確保をめぐる放射線照射論議


【デンバー駐在員 藤野 哲也 9月18日発】 ハドソン・フーズ社の牛ひき肉
回収事件は、米国民に食料品の安全性確保対策の重要性を改めて再認識させること
となった。また、この事件をきっかけとして、まだ認可されていない牛肉への放射
線照射の是非をめぐる論議が高まりつつある。 

 最近発生したコロラド州での冷凍のハンバーガー・パティが原因とみられる病原
性大腸菌O−157による食中毒事件は、国民に対し改めて食品の安全性確保の重
要性を認識させることとなった。

 このような中、牛肉、特にひき肉の安全性確保対策として、放射線照射をめぐる
認可の是非について論議が高まっている。放射線照射は、殺菌の効果が認められる
ことから、食品の保存期間の延長を図ることが可能となる。米国では、以前から食
品の害虫駆除や、果実の成熟および野菜の発芽の抑制のため、放射線照射が広く活
用されている。

 また、畜産物については、豚肉が86年に、また、鶏肉も92年に、それぞれ米
農務省食品安全検査局(FSIS)から放射線照射が認可されている。しかし、豚
肉では、これまで放射線の照射実績はなく、また、鶏肉についても、93年から、
一部の食品会社が小売り・外食向けを対象に放射線の照射を実施しているものの、
その数量は非常に限られたものとなっているのが実態である。なお、放射線照射食
品は、ラベルに照射した旨を表示するとともに、指定されたロゴマークを貼付する
ことが義務付けられている。

 牛肉に対する放射線照射は、申請後3年以上経った現在も認可されていないが、
O−157やサルモネラ菌等の殺菌が可能となるため、関係者から、今大きな問題
となっているひき肉の食中毒防止に大きな効果をもたらすとの期待が寄せられてい
る。

 96年の食品マーケッティング協会の電話聞き取り調査によれば、回答者の47
%が食品への照射の目的等を知らないと答えている。一方、放射線についての知識
を持っている者のうち、70%は、殺菌のために放射線を照射された食肉等を購入
するかもしれないと回答し、また、58%が、保存期間延長のために放射線を照射
された食品を購入するだろうと回答したとしている。

 なお、89年に実施された米農務省経済調査局(ERS)による調査結果によれ
ば、放射線照射による価格への上乗せは、工場の製造規模により異なるが、平均す
ればポンド当たり約1.3セント(約3円/s)から約4セント(約10円/s)
になるものと見込んでいる。

 一方、放射線照射については、消費者団体からの反対意見も根強くあるため、今
後の動向が注目される。





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