ALIC/WEEKLY


米、牛肉などの原産国表示論議の波紋


【デンバー駐在員 藤野 哲也 7月30日発】米国内で牛肉・羊肉の原産国表
示の論議が高まっている。原産国表示については、米国内でも賛否両論があるこ
とから、規則が制定されるかどうかは依然不透明であるものの、肥育牛を輸出し
ているカナダがいち早く懸念を表明するなど、その波紋が広がっている。

 米国の99年度農業予算案については、6月下旬に下院予算案が、7月下旬に
上院予算案が、それぞれ議会を通過し、今後、上下両院協議会において調整が図
られることとなっている。

 このうち、上院予算案では、牛肉・羊肉について原産国表示を行わせるという
修正案が盛り込まれることとなった。これによれば、農務長官は、予算案成立後、
1年以内に原産国表示に係る費用および消費者の反応について報告するとともに、
18ヵ月以内に規則を制定するよう求めている。原産国表示が実施された場合、
牛肉・羊肉には米国産または輸入物の表示が行われることとなり、カナダなどか
ら輸入されると場直行牛から生産された牛肉については、輸入牛肉という表示が
義務付けられることになる。

 ところで、食肉の原産国表示については、米農務省農業マーケティング局(A
MS)が本年4月に公聴会を開催している。この際、AMSは、原産国表示をあ
くまで自主的なものとして提案しており、そのプログラムの全体像は示されたも
のの、具体的な内容については、家畜の各流通段階で、個体ごとまたは群管理す
ることが必要なことから、経費面などさまざまな問題点が指摘されていた。

 全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、今回の上院予算案について、と場
直行牛が米国産牛肉として流通していることに疑問を持つ生産者の不満を解消す
るものであるとして歓迎している。また、原産国表示は、米国産牛肉が輸入牛肉
と差別化されるため、競争力が増し、生産者に利益をもたらすとしている。

 しかしながら、一部の生産者などからは、大半の輸入牛肉が、加工用やひき肉
として利用されている実態にかんがみ、原産国表示が米国産牛肉に付加価値を付
けることができるのであろうかと、その効果を疑問視する声も出ている。

 また、パッカーを会員とする米国食肉協会(AMI)も、原産国表示について
は、コスト増などを理由に反対の姿勢を示している。

 加えて、原産国表示が、貿易障壁となるとの懸念も一部に出ている。現に、カ
ナダのバンクリフ農業大臣は、原産国表示は、北米自由貿易協定(NAFTA)
における北米単一市場の趣旨に反して貿易障壁を構築することにほかならず、両
国の生産者、パッカーおよび消費者の利益に反するものであるとして、いち早く
反対の立場を表明するとともに、グリックマン農務長官に対し、同様の態度を示
すよう求めている。

 予算案は、上下両院協議会の調整が行われた後、議会が再開される9月8日以
降にその結論が持ち越されるが、今回の牛肉・羊肉の原産国表示問題は、他の食
品にも影響を及ぼしかねないことから、今後ともさまざまな議論が行われるもの
とみられている。


元のページに戻る