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98年の10大ニュース ブラッセル駐在員事務所 【池田 一樹、井田 俊二】


1.EU委員会、共通農業政策(CAP)改革案を提出
 EU委員会は、3月、昨年来の議論を踏まえてCAP改革案をEU理事会に提出した。
競争力強化だけでなく、環境に優しく、また農村の維持などの農業多面的機能を発揮
した、いわゆるヨーロッパ型の農業の維持発展がうたわれている。この目標の下で、
価格政策から所得政策へ転換、環境関連対策の拡充、構造政策の改善など、従来の改
革路線を一層押し進める提案が行われている。EU理事会は、来年春までには大筋の
合意に達したいとしているが、流動的である。なお、価格の引き下げによる需要拡大
も改革案の重要課題の一つであるが、EU委員会は、これまで生産者価格の引き下げ
が消費者価格に十分反映されない現実に懸念を表明しており、今後何らかの調査を行
う予定である。

2.3年ぶりにイギリス産牛肉等の輸出が解禁
 牛海綿状脳症(BSE)対策として96年3月以来続いていたイギリス産牛肉の輸
出禁止措置が解除された。まず3月、北アイルランドについて、過去8年間BSEに
汚染されていない農場の牛の肉等について輸出解禁が決定され、6月から輸出の再開
が許可された。次いで11月、グレートブリテンについて、重要な感染源である肉骨
粉の飼料への使用が実質的に禁止された96年8月1日以降に生まれた牛の肉等の輸
出解禁が決定された。ただし、実際の輸出再開期日は今後決定される。イギリス全土
からの輸出が解禁される一方、11月には、BSEの発生が増加したポルトガルに対
して牛肉などの輸出禁止措置が取られた。

3.豚肉市場の緩和が深刻化
 今年のEU畜産物市場は、部門を問わず、アジア、ロシアの経済危機等で輸出が振
るわず緩和した。特に、肉豚生産の増加で(前年比+6%見込み)、春から供給過剰
にあった豚肉市場は、ロシア危機により緩和を極めている。豚肉価格は、過去最安値
を更新し続け、11月末には88ECU(1万3千円:1ECU=148円)/枝肉100kgま
で落ち込んだ。このため、EUは、5月に輸出補助金を再開した(現在40ECU(5千9
百円)/枝肉100kg)。ロシア向けには、11月に特別輸出補助金(70ECU(1万4百円)
/枝肉100kg)を設定したため、輸出に再開の兆しが見られている。9月には調整保管
を発動した。さらに、ロシア向けの食糧援助(豚肉10万トン、牛肉15万トン等)が最
終検討段階に入っている。肉豚の増産傾向は来年も続くとみられている。


4.ホルモン牛肉問題に裁定下る
 EUのホルモン牛肉輸入禁止措置をめぐる米国等との10年来の紛争が、一応の決
着した。この問題を審議していたWTO紛争処理委員会は2月、EUが適正な危険性
の評価なしで、成長ホルモンを使用した牛肉の輸入禁止措置を取ったことはWTO検
疫協定違反である旨の最終裁定を下した。翌月EUは、裁定の受け入れを表明した。
ただし、即時に輸入を解禁するのではなく、指摘された危険性の評価を行うというも
のである。このため、これを不服とする米国等との間で仲裁が行われ、最終的に裁定
実施までの猶予期間が2月から起算して15ヵ月間と定められた。この間に危険性の
評価が完了しない場合は、輸入禁止措置の撤回または代償措置の受け入れが見込まれ
る。

5.EU−米国の包括検疫協定の枠組みが決定
 EUは、4月、米国の家畜・公衆衛生制度がEUと同等であると認め、両国間の家
畜畜産物検疫の円滑化を期する包括検疫協定の枠組みを決定した。特に「地域主義」
が明記されている点が注目される。EUは当該制度上、単一地域と見なされ、検疫問
題についての米国の交渉相手は、各加盟国からEUに一本化される。一方、重要疾病
が発生した場合は、EU全体ではなく、加盟国あるいは加盟国の一部を輸出禁止対象
地域とすることができるとされている。この協定は、米国での関連法規の設定を待っ
て調印される予定である。

6.今年もオーガニック農業への転換が進む
 EUでは、今年もオーガニック農業への転換が進んだ。オーガニック農業耕地面積
は、前年に比べてイギリスで25%増の約3万5千ha(1〜5月。補助対象農家ベー
ス)、フィンランドで2倍の約8万5千ha、スペインで約50%増の1万5千haなど、
各地で増加している。デンマークではオーガニックミルクの生産量が来年中に昨年比
2倍強の約30万トンに達すると見込まれている。同国のオーガニック牛乳の市場シ
ェアは既に約2割に達しており、供給が確保されれば5割程度までの増加が見込まれ
ている。  

7.高まる動物愛護の動き
 EUは7月、家畜全般の動物愛護の基準を定めた。不必要な苦痛の排除、適正な給
餌給水の実施など、最低限の倫理基準が定められており、来年1月から適用される。
既に、豚のつなぎ飼いについて2006年からの禁止、輸送中の家畜への給餌条件な
どが相次いで決定されており、現在も採卵鶏用のバタリーケージの最低面積(800
cu/羽)等に関するEU委員会の提案が検討されている。動物愛護は、関連団体か
らの要請だけではなく、消費者サイドからも食品の品質の一部として求められる傾向
にある。

8.遺伝子組み換え大豆食品などへの表示が始まる
 EUでは、9月から、遺伝子組み換え大豆あるいは同トウモロコシを使用した食品
に、遺伝組み換え体を使用している旨の表示が始まった。ただし、食品が、遺伝子組
み換えの結果生じたタンパクやDNAを含まない場合は、表示の必要はない。消費者
に一層の情報提供をしようとする動きの一つである。情報提供面については、EUで
は特にBSE問題以降毎年改善が図られており、例えば、食品、飼料、動物用医薬品
関連の規制など、消費者の安全性に関連する政策の決定に当たっては、EU委員会は
科学的な面からの検討結果を随時インターネット等を通じて公開している。
 
9.密飼養豚への新たな規制(オランダ)
 オランダでは、豚の飼養頭数を25%削減することを目標とする法律が制定された。
欧州有数の密飼養豚に伴う畜産環境問題、昨年の豚コレラの大発生に見られるような
防疫問題、さらに動物愛護面の改善を目的としている。養豚生産者には、95年また
は96年の平均飼養頭数を基準とする豚生産権が設定され、99年末までにその10
%の削減が課せられた。2000年には原則として、最低5%の頭数削減が課せられ
る。残りの10%は、豚生産権の取引に際して、政府が一定率で生産権を回収するこ
となどで2000年までに達成できると見込まれているが、達成できない場合は同年
の豚の頭数削減率が増加する。

10.混迷するイギリスのミルクマーク(MM)の生乳販売
 イギリスでは、生乳集荷販売組織であるMMと乳業者の確執が高まった。MMが7
月に実施した生乳販売入札では、仮販売価格が高いとして大手乳業者が入札を拒否し
たため、発足以来初めて全量不落となった。その後、入札以外での販売を試みたがか
なわず、8月、予定価格を引き下げて入札を完了した。MMは、乳業会社からの乳価
引き下げ圧力を背景に、昨年から委託加工や乳業工場の取得による生乳処理を始めて
おり、両者の緊張感が一層高まっていた。MMの事業については、現在公正取引委員
会が調査を実施している。



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