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98年の10大ニュース デンバー駐在員事務所 【本郷 秀毅、藤野 哲也】


1.豚肉価格、26年ぶりの記録的低水準(米国)
 96年末からの飼料穀物価格の急落と翌年3月の台湾における口蹄疫の発生など
を受けて、米国の豚飼養頭数が急速に増加傾向に転じた結果、98年の豚肉の生産
量は前年に比べ約9%の増加が見込まれている。肉豚の生産者価格は、直近では20
ドル台を割り込み、前年同期に比べ約3分の1の水準まで低下しており、年平均で
も前年の6割程度の水準に低下するものと見込まれている。これは、72年以来26
年ぶりの記録的低水準であり、全国豚肉生産者協議会(NPPC)は、米農務省
(USDA)によるこれまでの価格支援対策に加え、さらなる緊急支援対策を要請
している。

2.総額59億ドルの農家緊急支援対策(米国)
 農畜産物価格が低迷する中、11月の中間選挙を控え、連邦政府予算案は例年にな
い駆け引きにより成立が遅れていたが、10月21日、大統領の署名により、総額59
億ドル(7千億円:1ドル=120円で換算)にのぼる農家緊急支援対策を含む99
年度一括歳出法案が成立した。これにより、96年農業法で不足払いの代替措置とし
て導入された直接支払いが約50%増額され、約30億ドルの追加交付が行われるこ
ととなったほか、干ばつ、洪水、作物の病気などの自然災害により被害を受けた生産
者に対して、約24億ドルの災害援助金などが支払われることとなった。

3.米・加2国間の農畜産物国境紛争(米国、カナダ)
 農畜産物価格が低迷する中、11月に知事選挙を控えた米サウスダコタ州知事は、
9月16日よりカナダ産の生体牛、生体豚および穀物の輸入を規制するという措置を
講じはじめた。この動きはカナダと国境を接する隣接各州へと広がり、一時は、カナ
ダがWTO協定などに基づく協議を要請するという事態にまで発展した。その後、両
国が2国間貿易問題を協議する場を設けることを前提としてお互いにさやを納め、
12月3日、農畜産物市場開放対策について合意に達した。しかしながら、これを不
満とする米国農民が抗議活動を再開している。

4.世界経済の低迷により農産物輸出額が減少(米国)
 USDAが11月に発表した米国農産物の需給見通しなどによれば、米国の農産物
輸出額は96年度(95年10月〜96年9月)の598億ドル(7兆2千億円)を
ピークに減少傾向を示し、98年度は536億ドル(対前年比▲6.5%)となった。
さらに、99年度の見通しは505億ドル(同▲5.8%)と、3年連続の減少が見
込まれている。これは、主に農畜産物輸出価格の低迷を背景としたものである。この
結果、米国の農産物貿易黒字額は、96年の272億ドルをピークに、99年には
120億ドルにまで減少するものと見込まれている。

5.バター価格が急騰、BFPは最高記録を更新(米国)
 生乳生産が低迷する一方、好景気を背景としてバターの需要が堅調に推移したこと
などからバターの需給がひっ迫し、9月には前年同期の3倍近い水準にまで値上がり
した。その後、生乳生産回復の兆しなどを背景として、2カ月余りの間に半額以下に
まで急落している。他方、チーズ取引価格も上昇しつつあるため、これを基礎として
算定される基礎公式価格(BFP)は、他の農畜産物価格の低迷をしり目に過去最高
記録を更新している。

6.強化される畜産経営体に対する水質保全対策(米国)
 クリントン大統領が今年2月、水質アクションプランを公表したのを受けて、米環
境保護庁(EPA)は3月、畜産経営体に対する水質保全対策の草案を発表した。さ
らに、9月には、EPAとUSDA共同による畜産経営体に対する統一草案が発表さ
れ、全国各地において公聴会が開催されている。同対策では、家畜ふん尿の栄養分管
理計画の策定、畜種別の環境ガイドラインの策定、大規模畜産経営体(CAFO)に
対する許可証の発行などを通じて、畜産経営体による水質汚染を最小限に抑えること
が目的とされている。

7.ファストトラック法案、下院で否決(米国)
 クリントン大統領は昨年11月、議会からの十分な支持が得られないとして、ファ
ストトラック法案の下院での投票を延期した。その後も、農産物輸出の低迷や農畜産
物価格の低迷などを背景として、農業団体などから圧力がかかり、本年9月、下院本
会議で投票が行われた。同法案は、賛成180票、反対243票で否決されたが、反
対票のうち171票は民主党議員によるものであった。11月の中間選挙の結果、民
主党が議席数を増やしており、同法案の通過はより困難になるものとみられている。

8.HACCP導入元年(米国)
 USDAは96年7月、食肉・家きん肉処理加工場における食品の安全性を確保す
るため、危害分析重要管理点監視方式(HACCP)に基づく最終検査規則を発表し
た。その第1段階として、本年1月以降、従業員500人以上の大規模と畜・食肉処
理加工場において、HACCPが実施に移された。これを受けて、USDAでは、四
半期ごとに実施状況の評価報告を行っており、これまでのところ、順調に進展してい
ると評価している。99年1月には、第2段階として、中小規模工場(従業員10〜
500名)にHACCPが導入されることとなっている。

9. R−CALFによるアンチダンピング提訴(米国、カナダ、メキシコ)
 肉用牛全般の価格低迷を背景として、米国の牧場主―肉用牛生産者行動法律財団
(R−CALF)は、10月、米国際貿易委員会(ITC)に対して、カナダおよび
メキシコからの生体牛の輸入に対するアンチダンピング提訴、およびカナダの肉用牛
関連助成措置に対する相殺関税提訴を行った。これに対し、米国最大の肉用牛生産者
団体である全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、当初いずれの提訴も支持し
ない旨決定していたが、カナダに対する相殺関税提訴は支持する方向に方針を転換し
ている。ITCが正式な調査を開始するかどうかはまだ決まっていない。

10.乳調製品の輸入急増問題(カナダ)
 カナダは、WTO協定に基づき、乳製品およびその調製品に関税割当制度を適用し、
実質的に輸入禁止的な措置を講じたものの、乳製品含有率50%未満の調製品は同制
度の対象としなかった。このため、砂糖51%、バターオイル49%からなる乳調製
品の輸入が急増し、カナダ酪農に大きな影響を与えることとなった。こうした事態を
背景として、カナダ国際貿易裁定委員会(CITT)が同問題の解決策の調査・検討
を行ったものの、生産者団体の主張する関税割当対象への再分類は否定された。



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