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【シドニー駐在員 藤島 博康 11月5日発】リース雇用・労使関係大臣は、先ご ろ行われた食肉業界の会合で、食肉加工分野において著しく労働生産性の向上を阻害 しているとされるタリー・システムの撤廃に向けて強い決意を表明した。同システム は、豪州産食肉の国際価格競争力の向上を妨げている主要因ともされており、今後の 動向が注目される。 現政権が撤廃を目指すタリー・システムとは、食肉業界のなかでも、と畜、骨抜き などの加工業務に従事する労働者に適用される賃金制度で、連邦や州政府が定める最 低労働条件「アワード」の中に規定されている。 タリー・システム下での賃金は、時間当たりの単位ではなく、と畜または骨抜きし た頭数を基に算出され、一定頭数以上を処理した場合には大幅な割増賃金を支払わな ければならない。本来的には、頭数単位とすることにより、一日当たりの努力目標を 定めたものと言えるが、機械設備や周辺技術が日々進歩する今日では、実質的に作業 量の最高限度を設定することになり、設備投資や最新技術の導入などを図ったとして も、基準処理頭数を引き上げない限り、導入効果を100%発揮することはできない。 リース大臣は「政府諮問機関が作成した分析レポートでも、(タリー・システムは) 時代にそぐわず、食肉業界での生産効率を大きく阻害していると結論付けており、政 府は今後、タリー・システムの撤廃を目指し関係機関に強く働きかけていく」と語っ ている。 と畜加工場者関係団体や全国農業者連盟は、国際食肉市場での価格競争力の向上に つながるとして、政府方針支持を表明している。これに対し、食肉産業従業員組合 (AMIEU)は、タリー・システムと生産効率は無関係であり、同システムの撤廃 は賃金の引下げを招くだけとし、全面対決の姿勢を表明している。 現行の保守連合政権は、労使関係の改革については96年の政権奪還時から重要課 題の一つとして掲げており、今年3月に発生した港湾労働争議の際も、政府は企業側 全面支援に回り組合側との対決姿勢を強めていた。先月3日の総選挙を受けて2期目 に入った現政権とって、港湾や石炭などと並び戦闘的な職業組合として知られるAM IEUの弱体化は、アワード制の簡略化などと並び、第2段階に入った労使関係改革 の優先項目とされる。 また、第1次保守連合政権でも労使関係担当相を務め、3月の港湾労働争議では政 府側窓口として組合側に強い態度で臨んでいたリース大臣は、現在のハワード首相後 の次期首相レースにおいて、コステロ蔵相とともに最前列に位置するとされており、 労使関係の改革には並々ならぬ決意を秘めているものと思われる。 豪州のと畜加工コストは、主要牛肉輸出国である米国、アルゼンチン、ニュージー ランドといった国々よりも高く、その主因であるタリー・システムは、食肉の国際競 争力を向上する上で大きな障害になっているとする従来からの指摘もあるとおり、現 政権による労使改革の成否は食肉産業の将来を左右するものの一つといえ、今後の動 向が注目される。また、現在、と畜加工業界では、業界横並びの雇用条件であるアワ ード制ではなく、労使間で個別の企業労使協定を結ぶ例は、タリー・システムをより どころとする組合側の抵抗が根強いこともあり、未だ少数派であるが、今後の同シス テム撤廃に向けて事態が進展した場合は、急速に普及するものと見られる。
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