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【シンガポール駐在員 外山 高士 11月12日発】 タイの養鶏企業が、米国の 大手鶏肉パッカーと合弁企業の設立を行う計画を発表した。米国産鶏肉を輸入し、調 製品に加工の後、再輸出する計画であるが、鶏肉生産者たちは、タイ産鶏肉の締め出 しにつながるとして、同国政府に米国産鶏肉の輸入禁止を要請するなどの抗議行動を 起こしている。 タイの養鶏企業であるサハ・ファームは、米国の大手パッカー、タイソンフーズ社 と合弁企業を設立する計画を発表した。両社は、タイ国内に共同で大規模な鶏肉加工 工場を建設し、その工場で米国から輸入した鶏肉を、調製品に加工した後、ヨーロッ パや日本向けに再輸出することとしている。 これは、現在、タイにおいては、輸入した鶏肉を加工して再輸出する場合、鶏肉に かかる関税58%が免除されるため、より安価な米国産鶏肉を利用することで輸出価 格を低く抑えられることや、タイにおける高い加工技術を利用することにより、ヨー ロッパや日本における新たな市場の開拓を狙ったものと見られている。また、人件費 の安いタイで骨付きもも肉など、米国内で余剰となっている鶏肉を調製品に加工する ことが、特に日本市場における米国産鶏肉の価格競争力の強化につながることや、現 在、検疫条件のため、輸出がストップしているEU市場への米国産鶏肉の輸出が実質 的に可能となることも大きな要因であると見られている。 これに対し、養鶏産業の労働者や、タイ最大手の養鶏会社であるチャロン・ポカパ ン社をはじめとする地元養鶏企業では、安価な米国産鶏肉の輸入・加工・再輸出が、 タイ産鶏肉の生産量の減少につながり、生産量の減少に伴う国産鶏肉価格の上昇、飼 料会社などの関連業界を含む大量の失業者の発生などの国内産業に対する悪影響が生 じるとしている。また、現在、EUが検疫条件などを理由に、米国からの鶏肉の輸入 を禁止していることから、もしタイ政府が米国からの鶏肉輸入を許可した場合、タイ 産鶏肉調製品が米国産同様にEUから輸出を禁止される恐れがあることなどの悪影響 を挙げ、大規模な抗議行動を展開したり、タイ政府に対して、輸出品目として優良な 鶏肉調製品からの、実質的なタイ産鶏肉の締め出しにつながる今回の両者の業務提携 について、米国からの鶏肉輸入を禁止する措置を取るよう陳情を行っている。 これに対して同国政府は、飼料会社なども含む養鶏関係業界との協議会を開催し、 現在、米国政府およびタイソン社と、話し合いの場を持つよう申し入れを行っている との説明を行っている。その一方で、政府が、在タイ米国大使館から、早期にタイソ ン社の鶏肉に対して輸入許可を出すよう要請されているとの報道もあり、政府の今後 の対応が注目されている。
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