ALIC/WEEKLY
【ブラッセル駐在員 池田 一樹 10月1日発】EUの家畜衛生および動物愛護 に関する科学委員会は、スクレイピーの撲滅対策の原則を取りまとめ、EU委員会 に報告した。スクレイピーはめん山羊の病気で、牛海綿状脳症(BSE)などとと もに伝染性海綿状脳症に分類される。最近では撲滅対策を講ずる加盟国が増加して きている。 この報告は、加盟国がスクレイピー撲滅対策を講ずる場合、EUの補助の適否を 判断する基準として取りまとめられた。 まず、めん山羊の群単位での防疫を求めている。同病が親から子への垂直感染す る他、出産時の胎盤により水平感染も起こすこと、潜伏期間が長いことなどがその 理由である。実際、雌系統のとう汰と出産シーズンの水平感染の防止により大きな 防疫効果を上げているとしている。 次に、長い潜伏感染中の診断技術が未開発のため、清浄に見える群も汚染されて いる可能性があるとし、疫学状況の把握のためには、長期間の徹底した観察が必要 であるとしている。生前診断法の開発は、防疫上の最大の課題と述べるとともに、 抗病性についての遺伝素質の判定法の開発も求めている。 また、防疫効果の判定のため、事前に農場の疫学状況を確実に把握するとともに、 飼料への肉骨粉の使用禁止措置の確実な実施を国レベルで担保することが不可欠と している。このため、群の経歴の調査、地域や群単位での個体の無作為抽出検査、 飼料の無作為抽出検査の実施が必要であるとしている。 以上の原則の下に、次の具体的な対策基準案を掲げている。 1 個体識別(出生後7日以内) 2 所有者による全頭の飼養管理記録、出生年月日、搬出入記録、死亡廃用記録 など。血統の把握が望まれる。 3 疑わしい例の検査 神経失調や掻痒(かゆみ)など、スクレイピーを疑うような症状を呈する家 畜は、獣医師に臨床検査を依頼。獣医師は、当該家畜を処分して病性鑑定に送付。 4 獣医当局の立入検査(年1回以上) 臨床症状、飼養管理記録の検査。 5 2歳以上の廃用畜の臨床検査 国によっては、無作為抽出検査も必要 6 種雌のクローズドコロニー(閉鎖集団)化 7 同様の疫学状況下にある農場間での家畜の移動 8 スクレイピーが発生した場合の対策 低発生地域では、全頭処分。高発生地域では、群の閉鎖などの方法も可能。 9 農家および獣医師への啓蒙 症状のビデオを使用。 10 補償の徹底 届け出の徹底を図るため、処分家畜に対して100%の補償を実施。 11 病性鑑定施設および方法 病性鑑定は所定の施設で、専門家が実施。確定診断ができない場合など はレファレンスセンター(中央診断センター)で再検査を実施。 なお、統一的な検査を実施する上で、EU内に同センターの設置を求めている。 同病の発生例が多いイギリスでは、病畜は殺処分されている。処分家畜に対しては、 廃用家畜の市場評価額が補償される。現在30英ポンド(約7千2百円、1英ポンド =240円)程度と低額であるが、病畜であるため、種畜としての評価は考慮されて いない。ただし、病性鑑定の結果、スクレイピーが否定された場合は、最高400英 ポンド(約9万6千円)まで補償される。
元のページに戻る