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【シドニー駐在員 野村 俊夫 10月1日発】豪州ビクトリア州では、主要な天 然ガス精製工場で爆発事故が発生し、州内へのガスの供給が全面的に停止した。こ の結果、多くの住民が不便な家庭生活を強いられているのみならず、乳業・食肉を 含む多くの工場が操業を短縮・停止し、生乳の出荷が滞るなど、産業界にも大きな 影響が及んでいる。 去る9月25日、ビクトリア州メルボルンの約150km東方にあるギップスラン ド地方ロングフォードの天然ガス精製工場で爆発事故が発生し、作業員2名が死亡、 多数が負傷する大惨事となった。 事故の直接の原因は未だ究明されていないが、同工場から事情聴取したビクトリ ア州政府によると、3本ある同工場のガス供給パイプラインのうちの1本が完全に 破壊されている。 さらに、被害の軽い2本のパイプラインも、復旧まで少なくとも2週間はかかる とのことであり、完全に元の供給レベルに戻るまでには、さらに数ヵ月を要する見 込みであるとされている。 同州は、近隣のタスマニア海の海底で採取される天然ガス資源に恵まれているた め、他州に比べて家庭用・産業用のエネルギー源としての天然ガスの利用率が極め て高い。 こうした中で、当該工場は、州全体のガスエネルギー需要量の約80%を供給し ていたと言われており、ガスエネルギー供給の中枢を担っていただけに、その完全 供給停止の影響は計り知れないものがある。 今回の事故は金曜日に発生したため、その影響は、まず、州民の家庭生活に及ん だ。多くの家庭で調理にガスを使えなくなり、加えて冷たいシャワーを余儀なくさ れた。 また、メルボルンなどの市街では、レストラン、パン屋などの多くの外食産業も 調理用のガスが使えないために閉店せざるを得ない状況となっている。 週が明けると、今度は、産業界への影響が極めて深刻であることが明らかとなっ た。天然ガスをエネルギー源として利用している多くの工場が、操業短縮や停止を 発表したためである。 中でも、自動車、乳業・食肉・製パンなどの食品、タイルなどの建材、プラステ ィック・化学工業、製紙などの産業が大きな被害を受けている。 乳業分野では、大量のガスを使用する粉乳工場などが影響を受けており、大手の メーカーが相次いで工場の操業を短縮・閉鎖した。メーカー側は、とりあえず、生 乳の他工場への転送により対応したが、工場のエネルギー源をディーゼルに転換す ることにより、事故発生から4日後の29日までに操業を一部再開した。しかし、 エネルギー転換が技術的に困難な大型工場もあり、今回の事故の影響は甚大となっ ている。 また、これにより、3,500戸もの酪農家が生乳を出荷できなくなり、各農家 のバルククーラーも使用できないため、大量の生乳が廃棄される事態となった。同 州酪農生産者組合によると、29日の時点で、廃棄処分された生乳は既に2万トン に達したとされている。 また、一部の食肉パッカーも工場の操業を停止しており、その影響は州全体の 15%に達したとされている。 一方、大手自動車メーカーを始めとする工場の操業停止によって一時的に職場を 離れざるを得なくなった労働者は10万人に達すると見られており、今後の展開い かんによっては、ビクトリア州のみならず、豪州全体の経済にも悪影響を及ぼすの ではないかと懸念されている。
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