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ロシア経済危機で懸念されるEU畜産物への影響



【ブラッセル駐在員 井田 俊二 9月10日発】EUでは、8月中旬に発生した
ロシア通貨(ルーブル)下落によるロシア経済危機により、今後、EU農畜産物市
場への影響が懸念されている。近年、EUではロシア向け畜産物の輸出が増加して
おり、主要な輸出先となっている。


 EUでは、8月中旬に発生し混乱が続いているロシアの経済危機により、畜産物生
産者および輸出業者などの間で、   EUの畜産物マーケットに及ぼす影響を懸念する
声が広まっている。

 近年、EUにおける畜産物域外輸出のうち、ロシアの占める割合が大きくなってお
り、97年農産物のロシア向け輸出総額は54億ECU(約8,400億円)となっ
ている。

 97年の主な畜産物のロシア向け輸出量は次の通りである。

        (単位:千トン、%)
   ロシア向け輸出量 ロシア向け輸出比率
 牛肉    354           44
 豚肉        341           32
 鶏肉        293           29
 バター      100           38
 チーズ      249           30

 品目別の主な輸出国は、牛肉ではドイツ、オランダおよびアイルランド、豚肉では
デンマーク、鶏肉ではフランス、オランダ、バターではオランダ、フランスおよびド
イツ、チーズではドイツ、フランスおよびデンマークとなっている。

 今回の経済危機の影響が大きいのは、特に食肉とみられているが、特に豚肉につい
て影響が大きい。

 EUにおける豚肉の需給は、96年の牛海綿状脳症(BSE)の影響による需要の
増加およびオランダなどで大量に発生した豚コレラの影響により、EU加盟国の主要
生産国で増産が進んだ結果、急激に市場価格が下落し記録的な低迷を続けている。今
後、さらに豚コレラが終息したオランダの出荷再開により一層の供給増加が見込まれ
るため、豚肉の需給改善対策が緊急な課題となっている。この対策の一つとして、
98年8月から豚肉輸出補助金の引き上げ措置の実施や、イギリスなどでは繁殖雌豚
のとう汰などが実施されている状況にある。今回の経済危機は、こうしたEUの豚肉
マーケットの状況にさらに追い打ちをかけるのではないかとみられている。

 このような状況の下、一部加盟国からは、民間在庫助成措置の導入や豚肉輸出補助
金の引き上げなど追加的なマーケット改善措置が要望されている。

 EU委員会では、このようなロシアの状況に対して静観の姿勢を取っており、支援
措置も91年から実施している技術的な措置(TACISプログラム)に基づく範囲内
で行うと表明している。

 今後の、EUの畜産物需給に注目する必要がある。





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