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再建策を模索するインドネシアの酪農


【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 9月24日発】インドネシアの酪農は、通貨の
大幅な下落による輸入乳製品の高騰で、牛乳価格が大幅に値上がりするとともに、所
得の目減りが消費量の減少に大きく影響し、深刻な問題となっている。しかし、財政
難にある政府は、各国の技術支援などを有効に活用することが、酪農再生の最善策の
一つとしている。
 インドネシアの酪農は、牛乳価格が高騰するとともに、消費量が大きく減少し深刻
な問題となっている。
 牛乳加工協会会長によると、「牛乳価格は、その原料の多くを輸入に依存している
ため、通貨の大幅な下落の影響をまともに受けて、通貨下落以前に比べ同価格を4倍
以上値上げしなければならないところである。しかし、国民所得の急激な減少などか
ら消費者の購入は、主食となる米などを優先させていることから、牛乳消費が大幅に
減少しているため、2倍以下の値上げに押さえざるを得ない状況となっている。」と
述べている。
 今年の1人当たり年間牛乳消費量は、年ベースに換算すると、前年の約7s(速報
値)から約3s(推計値)へと約6割もの減少となり、80年代の消費量に逆戻りす
ると見込まれている。ちなみに、同国の同消費量は77年に3sを超えた後、順調に
増加し、95年には7sに達した。
 このため、乳業各社は、製品包装の簡易化を徹底するなどにより、製品価格の引き
下げに努めるとともに、国内の生乳自給率を早急に高める政策を講じるよう政府に強
く要請している。
 これに対して政府は、短期的には、購買力の低下している消費者を刺激するための
何らかの補助、乳業会社への融資や補助金などの利用および諸外国からの支援の受け
入れなどとしている。長期的には、多くの酪農家、酪農協同組合の活性化および自国
の豊富な天然資源の有効利用などにより、酪農産業を再建することが可能としている。
 具体策としては、生乳生産の効率を高めるため、人工授精の実施を通じた遺伝形質
の改良、流通機構の改革、関連器具・装置の普及、業界の育成などを盛り込んだ改善
計画を実施することとしている。また、97年から国際協力事業団の支援を受けて実
施している酪農技術改善事業などにより、酪農家の飼養管理を改善し乳牛の泌乳量を
高めることで、生乳自給率の向上を図るとしている。
 一方、明るい材料としては、輸入粉乳1トン当たりの価格が2,200USドル、
生乳換算でトン当たり275USドルとなり、1s当たり20USセントにも満たな
い同国の生乳農家販売価格と比較しても輸入品はかなり割高となっていること、さら
に、通貨危機以前、生乳需要量のうち、国産生乳の供給割合が約3割であったが、輸
入量の減少が影響しているものの、その割合が約5割に上昇していることなどから、
今後は国産生乳の自給率を高める絶好の機会となっているとしている。
 未曾有の経済危機で財政難に直面し、打ち出せる政策に限度がある政府にとっては、
日本を含めた各国の技術支援などを有効に活用することが長短期的にみても、酪農再
生の最善策の一つとしている。

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