農場経営安定に向けた新制度がスタート(豪州)−大洋州−平成11年4月第384号

ALIC/WEEKLY


農場経営安定に向けた新制度がスタート(豪州)



【シドニー駐在員 野村 俊夫 4月15日発】豪州連邦政府は、今月から、農場
経営を安定させるための新たな施策として農場経営積立金制度(Farm Management 
Deposits: FMDs)をスタートさせた。当該制度は、農場経営者が定められた条件と
限度内で、非常時に備えた経営対策資金の積み立てを有利に行えるように取り計ら
う内容となっている。

 牛肉などの畜産物を含む豪州の農産物生産は、干ばつや洪水などの自然災害によ
る影響を受けやすく、また、輸出依存度が高いため、それらの販売価格も、国際需
給の動向いかんで年々大きく変動する。

 一方、同国には農産物価格を支持するための介入買入れなどの施策はほとんど存
在せず、生産した農産物は時々の市場価格で販売することが基本とされていること
から、農場経営者にとって、自らの経営リスクを適切に管理することは必須の条件
となっている。

 こうした事情を背景に、連邦政府は、この4月から、農場経営を安定させるため
の新たな施策として農場経営積立金制度(FMDs)をスタートさせた。
 
 これは、農場経営者が、非常時に備えた経営対策資金の積み立てを有利に行える
ように支援する制度であり、農業外収入が年間5万豪ドル(約375万円:1豪ド
ル=約75円)を超えない者(農場経営を主たる収入源とする者)のみを対象とし、
1戸当たりの積み立て限度額は30万豪ドル(約2,250万円)と定められている。

 積み立てられた経営対策資金は、最低12ヵ月間据え置くことを条件に課税所得
から控除されるが、その間においても預金利子は、通常の預金と同様に支払われる
ことが認められている。

 ちなみに、積み立てを行う金融機関は特に限定されておらず、金利などの面で有
利な機関を自由に選択できるとされているが、当該金融機関は、便宜上、各戸ごと
に一本化することが条件とされている。

 農場経営者は、農産物価格の下落などによって経営困難な事態に陥り、積み立て
た経営対策資金を利用する場合には、連邦政府に申請書を提出して経営状況に関す
る審査を受けた後、「免税証明書」の発行を受けることとされている。

 そして、当該証明書の限度内の資金利用は非課税扱いのままとなるが、審査の結
果、証明書が発行されなかった場合や、記載限度額を超える資金を利用する場合は、
通常の所得と同様に見なされ、規定の税が課されることになる。

 今回の新制度は、従前の収入安定積立金制度(Income Equalization Deposits: IEDs)
および農場経営基金制度(Farm Management Bonds: FMBs)の両制度を土台としている
が、従前は積立金額の61%のみが利子支払いの対象となっていたのに対し、新制
度では100%がその対象となるなど、その中身については大幅な改定が施されて
いる。

 昨年来、アジア経済危機に端を発した国際需給の緩和によって羊毛価格が急落す
る一方、干ばつの解消に伴って肉牛価格が高騰するなど、豪州の農産物価格は相変
わらず大きく揺れ動く状況が続いている。このため、今回の新制度は、不安定とな
りがちな豪州の農場経営を安定させる貴重な手段として機能することが期待されて
いる。


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