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【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 4月22日発】ニパ・ウイルスの進入を阻止 するため生体豚の輸入を禁止したシンガポールでは、一時的に市場から豚肉が消え たものの、最近、量販店などでは中華料理などに欠かせない豚肉の需要を満たすた め、豪州から空輸した冷蔵豚肉を販売している。しかし、価格は従前に比べかなり 割高となっている。 マレーシアでは、ニパ・ウイルスの勢いは衰えているもののその犠牲者が99人 (4月20日現在)となり、深刻な事態となっている。また、シンガポールでは、 同ウイルスが原因とみられる症状でと畜場の労働者が死亡したことから、この進入 を阻止するために3月20日以降、マレーシアなどから生体豚などの輸入を禁止し ている。 シンガポールでは、生鮮食品のほとんどが伝統的な市場であるウェットマーケッ トおよび量販店で販売されているが、今般の輸入禁止後は、これらのマーケットで 豚肉の販売がしばらくの間途絶える状態が続いた。さらに、零細規模の多い同マー ケットの豚肉販売店は、現在に至っても休業に追い込まれており、かなりの者が廃 業したとみられている。また、飲食店の料理メニューから豚肉が無くなり、鶏肉な どに急きょ変更する店も多く現れている。変更ができない豚肉専門の飲食店も、販 売店と同様に休業もしくは廃業に追い込まれている。 量販店などでは、人口の8割弱を占める中華系住民に欠くことのできない中華料 理の主な食材である豚肉の需要を満たすため、3月末以降、豪州から空輸した冷蔵 豚肉を販売している。しかし、輸送手段が空輸のために、物流コストはかなり高い ものとなり、その小売価格は従前に比べ約2〜3割高いものとなっている。また、 冷蔵保管施設の整備が遅れているウェットマーケットで冷蔵豚肉を取り扱える豚肉 販売業者は限られている。 一方、ウェットマーケットで販売される豚肉は、早朝にと畜した豚を温と体で輸 送し、その日の昼までに全量売り切られるために、冷蔵施設の必要性が低いもので あった。また、消費者も、量販店の増加で冷蔵食肉の購入機会は増えているものの、 冷蔵および冷凍品よりも温と体の豚肉に慣れ親しんでいるため、これを好んで購買 する傾向にある。 同国政府は、今後の食肉の消費について、冷蔵および冷凍品を奨励しているもの の、これを徹底させるにはウェットマーケットにおける冷蔵施設の設置に大きな予 算が必要となること、と畜場において部分肉加工処理施設を併設しなければならな いこと、食肉販売業者への食肉流通知識の啓発を行う必要があることなど問題が山 積しており、流通実態に任せざるを得ない状況となっている。 しかし、これまで安定した豚の輸入先であったマレーシアが、ニパ・ウイルスに 感染したとみられる豚を大量に殺処分した影響で、今後シンガポールは同国から安 定した輸入が見込める状況にはない。このため、同国は、新たな輸入先の開拓およ び冷凍品などへの取り組みの強化を早急に行う必要があるとみられる。 ちなみに、同国における豚の主な輸入先は、生体がマレーシアおよびインドネシ ア、部分肉がオランダ、デンマーク、米国などとなっている。また、同国政府は、 豪州から冷蔵豚肉を輸入するに当たり、BEキャンベル社ほか6社を、指定工場と してリストアップしている。
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