ALIC/WEEKLY
【シドニー駐在員 野村 俊夫 12月9日発】豪州連邦政府および畜産をはじめ とする農業関係者は、米国シアトルで開催された世界貿易機関(WTO)の閣僚会 議が、交渉開始を宣言できずに決裂したことに対し、一様に強い失望を表明してい る。 ベイル外務・貿易大臣は、今回の結果について、豪州にとって非常に残念なこと であり、次回の会議開催は米国大統領選挙の影響で遅れる可能性が高いと報告した。 また、農業とサービスの交渉は、前回交渉の約束に従って来年1月から開始される ものの、妥結期限も設定されていないことから、EUや日本などの農業保護国が前 向きに対処するとは思えないとの悲観的な見通しを付け加えた。 ベイル大臣らとともにシアトルに滞在していた全国農業者連盟(NFF)のドン ジャス会長は、会議の決裂と少なくとも数ヵ月にわたる遅延は、豪州の農業生産者 にばく大な損害を及ぼすことになるとし、一刻も早く全体交渉を開始するべきだと 厳しい口調でコメントした。 一方、豪州のマスコミ各社は、決裂を招いたことに対する米国の責任を追及して いるが、中でもクリントン大統領の指導力の欠如と、バシェフスキー議長を筆頭と する主催者側の会議運営の不手際を強く非難している。豪州にとって最大の関心分 野であり、かつ、最大の難関とされた農業分野で、かなりの歩み寄りが見られてい たにもかかわらず、米国内の説得に失敗し、さらに途上国を無視した強引な会議運 営によって、せっかくの成果を台無しにしたことへの批判は極めて痛烈となってい る。 豪州は、主要な農産物輸出国18ヵ国で構成するケアンズ・グループの主導国で ある。豪州にとって重要な輸出農産物である牛肉(全生産量の約60%を輸出)、 砂糖(同約80%)、乳製品(同約60%)などは、いずれも輸入国の高関税や関 税割当制度などに直面している。加えて輸出補助金による国際市場わい曲の影響も 被っている。このため、農産物貿易の一層の自由化に向けた今回のWTO交渉への 期待は極めて大きかったと言える。 豪州は、今でこそ農産物の自由貿易を提唱しているものの、旧宗主国イギリスへ の特恵的な農産物輸出で潤っていた時代には、むしろ国内保護主義的な傾向が強か った。しかし、73年のイギリスのEU(旧EC)加盟で状況が一変した。厳しい 国際競争の場に放り出され、かつ、石油危機に伴う価格暴落によって多大な損害を 被った。このため、新たな環境に対処するべく、それまでの高い国内保護を大幅に 削減する政策に転じた。これらの政策は、酪農分野などにおいて現在に至るまで一 貫して継続されている。 現在、豪州が、農産物貿易の一層の自由化を強硬に主張する背景には、こうした 経緯がある。かつて高い水準にあった国内保護を自ら削減し、農産物の低価格に耐 えつつ国際競争力を伸ばしてきた国とその生産者たちにとって、他国による国内保 護の継続は承服し難いものに違いない。
元のページに戻る