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前途多難、豪州の家畜個体識別制度



【シドニー駐在員 藤島 博康 7月1日発】豪州では、現在、牛の誕生からと畜
までを個体ごとに電子耳標で識別管理する制度が計画されており、ビクトリア州で
試験的に導入されている。既に生産者に耳標を配布したものの、と畜場でのデータ
収集や管理運営面で業界内の意見調整に手間取るなど、試験導入ながら前途多難な
スタートとなった。

  この制度は「全国家畜個体識別制度(NLIS)」と称され、連邦政府や豪州家
畜生産者事業団(MLA)の協力の下、全国的な実施に先駆けビクトリア(VIC)
州政府により試験導入されている。基本的には電子耳標に出生農場等の情報を書き
込み、これをと畜段階で機械的に読み取り個体ごとのデータを収集。牛肉の出どこ
ろを集中的に管理することによって、消費者に安全で健康的な牛肉を提供し、国内
外で豪州産牛肉の市場価値を高めることを目的とする。

 VIC州による試験導入は、肉牛農家と酪農家の任意協力者を対象とし、1個
12豪ドル(約984円:1豪ドル=82円)の電子耳標1百万個を無料配布す
る。既に8万個以上の発注を受けたとしており、生産者の関心は高い。

 現在、大きな障害となっているのは、と畜段階で収集される枝肉の品質などに
関するデータ管理について。肉牛生産者側は枝肉データのフィードバックを望ん
でいるものの、と畜企業側は、枝肉データはその購入者に管理権限があるとして、
肉牛生産者への情報提供に難色を示しているとされる。

 豪州肉牛生産者協議会では、枝肉データのフィードバックがなければ、生産者
にとって制度を導入する意味はないとして、データ所有に関する法的な根拠を明
確にした上で、と畜企業や枝肉購入者に前向きに働きかけていくとしている。

 また、と畜場での耳標読み取り装置、枝肉データなどの関連情報を処理するハ
ードウエアやソフトウエアなどのインフラが未定である上に、これらと畜場に設
置される機器の導入経費に関して、業界内での負担区分が明確でないことも、
と畜企業の積極的な協力が得られない一因となっている。

 世界的に食品の安全性に関心が高まっている中、ニュージーランドやカナダな
どの競合する牛肉輸出国も個体識別制度の導入を計画しており、その必要性は業
界の誰もが認めるところである。しかしながら、全国規模で展開した場合に、生
産者の自主参加にゆだねるのか、義務化するのか、今後大きな論争に発展する可
能性もある。特に、クインズランド州などに見られる大規模で粗放的な経営では、
大自然の中で人手をかけずに生産されることが大きなメリットでもあるだけに、
その対応が注目される。

 NLIS導入のより現実的な動機として、2000年からEU域内でコンピュ
ータによる牛の個体識別などのデータベースの構築が義務化されることが挙げら
れ、EUの制度導入に合わせ豪州の体制を整備し従来どおりの輸出アクセス確保
を目指す。関係者は、年内にはデータベースを構築したいとしているが、解決す
べき問題は少なくない。

 なお、現在、無料配布される電子耳標の約6割が酪農家に渡っているとされ、
電子耳標を利用した個体に合わせた穀物飼料給与などによって、2割以上の生乳
生産量の増加が期待できるとする報告もあり、飼養管理の向上という観点から、
酪農家の関心は高いようだ。


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