ALIC/WEEKLY
【ブラッセル 井田 俊二 7月8日発】 オランダでは、豚生産者団体が豚生産の 再編法の差し止め訴訟を起こしている。このため、98年から2000年までに豚 飼養頭数を20〜25%削減(95、96年の飼養頭数をベース)する計画が中断 している。 オランダの養豚は、南・東部地域を中心に集約的な生産が行われており、大量の 家畜ふん尿による環境汚染問題や過密飼養による家畜衛生問題等が深刻化している。 この対策としてオランダ政府は、98年4月、2000年までに環境汚染物質で あるリン酸塩を25%削減するための豚生産の再編法を制定し、98年9月から実 施した。リン酸塩の削減計画は次の通りである。 ・ 第1段階:98年にリン酸塩を10%削 減(政府補償なし) ・ 第2段階:2000年にリン酸塩を15% 削減(一部を除き政府補償あり) この削減方法は、生産者ごとに豚生産権を割り当て、政府が生産者から豚生産権を 買い上げまたは回収することとしている。この結果、2000年には豚飼養頭数が 20〜25%削減することが見込まれていた。 ところが、同国の豚生産の約40%を占める生産者団体(NVV)が、満足な政府 補償を伴わない強制的な豚生産権の買い上げ・回収は不当であるとし、政府を相手取 り法律の差し止め訴訟を起こした。この裁判は、99年2月に原告の主張を支持する 判決が下された。政府は、この判決を不服とし控訴する一方、代替法案の検討を行っ た。この代替案は、強制的な削減を撤回し生産者の自主性を配慮するものであったが、 最終的に内閣の合意に至らず、99年6月7日、農業自然管理水産大臣は辞任した。 99年6月10日には、二審でも一審の判決が支持された。政府は、上告の意向を 表明する一方で、新大臣の下、新たな代替策を検討しており、9月には何らかの対策 を打ち出すこととしている。 また、6月には、裁判所の警告に従い法律の執行が停止され、削減を義務付けられ ていた10%の豚生産権が生産者に返還された。この結果、豚飼養頭数の削減計画は 現在中断している。 オランダでは、97年2月の大規模な豚コレラの発生によるとう汰の結果、飼養頭 数が大幅に減少したが、98年3月の終息後、飼養頭数は急速に回復した。 施設利用型が多い豚生産は、自家農地へのふん尿の還元が限定されることから、鶏 や牛と比べてふん尿の余剰排出量が多いため、環境への負荷が大きい。このため環境 へ及ぼす損害額は、年間5〜10億ギルダー(285〜570億円:1ギルダー=5 7円)に上ると見積もられている。 政府は、深刻化する畜産環境対策として豚飼養頭数の削減を必須条件と位置付けて おり、今後どのような提案が打ち出されるか注目したい。
元のページに戻る