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【シドニー駐在員 野村 俊夫 7月22日発】政府諮問委員会は、先月30日、 ヴェイル農漁林業大臣に羊毛業界の大幅な再編を促す勧告書を提出した。 当該諮問委員会は、昨年11月、業界の代表団体である豪州羊毛研究販売促進機 構(AWRAP)の年次総会で、全国の生産者の代表による不信任投票によって会 長以下役員全員が解雇されるという異常事態が発生したため、これを収拾するべく 組織されたものである。 AWRAPに対する羊毛生産者の怒りが爆発した直接の原因は、アジアの経済不 況に伴って昨年から羊毛価格が暴落したことにあったが、その背景はそれほど単純 なものではなかった。 80年代後半には既に国際需要が減少していたにもかかわらず、政府が高水準の 価格支持を続けたことから生産が急増し、一時は460万俵(約82万トン)とい う膨大な介入在庫が発生した。 91年には、今度は価格支持政策が突然撤廃されたため、羊毛価格の暴落を招き、 政府や業界指導部の一貫性を欠いた施策に対する生産者の不信が増幅された。 今回の勧告は、こうした流れを背景としているため、生産者には政府の補助から の自立を求める一方、業界団体には大幅な再編合理化を求めており、34の改革項 目を掲げて2001年には新体制に移行することを目標としている。 このうち、生産者については、効率的な経営を実践できている者は、全体の約2 0%にすぎないとし、最も非効率な約20%の生産者に対しては、暗に廃業または 転業を促すという衝撃的な内容となっている。 さらに、化学繊維や綿などに押されて、羊毛需要の増加は今後も期待できないと し、今後は、羊の増頭よりも、むしろ良質の羊毛の割合を高めることで収益を伸ば すべきだとしている。 業界団体に対しては、AWRAPを廃止して豪州羊毛サービス(AWS)という 民間企業を設立し、生産者に売買可能な株を配分するとしている。 さらに、豪州羊毛試験公社(AWTA)を同じく民営化してAWSの子会社に配 置するなど、数ある業界団体を大幅に整理統合することを提案している。 業界団体の運営資金となっている課徴金については、来年度に引き下げを行い、 その後は生産者が課徴金制度の存続を決定するべきとしている。 一方、政策面では、今後はいかなる価格介入も有り得ないとし、価格支持政策の 復活を完全に否定している。 なお、今回の勧告の内容は、明らかに昨年実施された食肉業界の再編をモデルに したものである。 羊経営は肉牛や穀物との複合が多いことから、勧告に従って多くの非効率な経営 が廃業する場合には、羊肉・牛肉などの畜産物や他作目の生産への影響が懸念され るところとなろう。
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