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タイ酪農振興公社、民間への売却入札は失敗



【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 6月10日発】先般、延期された国営企業で
あるタイ酪農振興公社(DFPO)の民間への売却入札は、5月に2回実施された
にもかかわらず、いずれも失敗に終わった。このため、政府はDFPOの売却を強
行するのか、それともDFPO職員の生き残りをかけた運営を継続させるのか、早
急な判断に迫られている。

 タイ酪農の発展に貢献してきた国営企業であるDFPOは、政府支出経費の削減
および政府機関の簡素化などの方針により、今年3月に民間に売却されることとな
っていた。

 しかし、生乳をDFPOに出荷してきた多くの酪農家は、安定した生乳の出荷が
確保されない状況下での民間への売却に強い不安を抱いていた。また、DFPOの
労働者も、現人員の確保および既に解雇された労働組合幹部職員などの復職を求め
て売却に反対していた。

 このような状況を打開するため、政府は、生乳の出荷先の確保および解雇された
職員の復職について再度協議すると同時に、当初予定していた民間への売却入札を、
5月まで延期することで事態の収拾を図ったところであった。

 しかし、延期された入札は5月3日に実施されたものの、応札者は1社のみで、
しかもその入札価格が低水準であったため不落札に終わった。このため、DFPO
は、急きょ、13乳業メーカーを召集し入札条件などの緩和に応じる説明会を開催
したにもかかわらず、ほとんどの乳業メーカーは入札に関心を示さない状況であっ
た。

 当初、数社の乳業メーカーは、DFPOが所有する乳業工場と「レッドカウミル
ク」のブランドについて興味を示していたが、DFPOが要求する額が高額であっ
たことなどが原因で、関心が薄れていた。

 このようなことから、政府協同組合振興局は、時間をおいて5月28日に再度入
札を実施することとしたが、結果は失敗に終わった。

 このため、DFPO売却実行委員会は目下の最善策として、人員削減に反対して
いる幹部職員にDFPOの運営責任をゆだねることとし、DFPOが定めた債務返
済の目標を5年以内に満たすことができなかった場合に、職員のリストラを図った
上で、再度民間への売却を検討するという対応案の承認を同局に求めている。なお、
DFPOは、1ヵ月当たりの収入が約8千万バーツ(1バーツ=約3.4円)であ
るのに対し、支出はそれを大きく上回っているため、負債総額が約6億バーツに膨
れ上がっていると見込まれている。

 しかしながら、DFPOの職員は、営業経験および運営知識などが不足しており、
効率的な経営は難しいものとみられている。さらに、DFPOは、経営危機を打開
するに当たり、DFPO自身で解決することが不可能で、しかも長期にわたり放置
されてきた多くの問題を抱えている。このことから、同委員会が求めている対応案
は、単に問題を先送りにしただけとの批判が強い。政府は、DFPOの民間への売
却を強行するのか、それともDFPO職員の生き残りをかけた運営を継続させるの
か、早急な判断に迫られている。


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