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【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 6月24日発】タイ畜産局は、約1年前に完 成し、輸出も視野に入れた衛生的かつ近代的な豚のと畜場の運営を、民間業者に委 ねることとしていた。しかし、同と畜場は施設使用料が高額であるため、現在にお いても運営する者が決まらず未稼働の状況に置かれている。 タイ畜産局は、バンコクの東に隣接するチャチュンサオ県の国有地に4億8千万 バーツ(1バーツ=約3.4円)を費やして、約1年前に衛生的で、かつ、近代的 な設備を有する豚のと畜場を完成させた。このと畜場で肉豚を処理することにより、 国内の消費者には衛生的で安心な豚肉の供給を、海外には衛生水準の高い豚肉の輸 出を増加させ、養豚産業の健全化を図るとしていた。また、その業務を運営するに 当たっては、効率的な経営を行うために民間業者に委ねる方針としていた。 同局は、と畜場を運営する業者を複数の民間業者の中から1者選定することとし ていた。また、財政当局は、と畜場の建設に多額の費用を要したため、施設使用料 が高額になるのもやむを得ないとして、その料金を公表していた。 これによると、入札により選定された者は、3年間を施設使用期間とし、同期間 の土地賃借料として2千90万バーツ、建物使用料として月額3万4千バーツ、機 械・器具使用料として月額1万バーツを支払うとしており、月額平均の施設使用料 は約62万バーツにもなる。また、3年後の施設使用料についても、見直しがなさ れることになっている。 当初、業界では、と畜場の運営を10余りの豚肉輸出業者などが約1億バーツを 出資して設立した法人により行うこととしていた。業界大手のチャロン・ポカパン も、と畜場の公平な利用を図る観点から、1企業のみで運営するのではなく多数の 豚肉輸出業者および大小の農家など、複数の者により設立される企業で業務が運営 されるべきとしていた。 と畜場を運営するに当たって、さらに大きな問題が挙げられている。と畜処理能 力が1日当たり1,600頭にもかかわらず、実際の1日当たりのと畜見込み頭数 は約800頭と、能力に対し5割の低稼働率になるとみられている。さらに、運営 する企業は、生産者から出荷された1頭当たり約4,800バーツの豚肉代金の支 払いとして、1ヵ月当たり1億バーツを超える資金を準備する必要がある。最も大 きな問題としては、同企業が仕入れた豚肉が、非合法とされていると畜場で処理さ れた安価な豚肉と、市場で競争して販売しなければならないことが挙げられている。 また、業界では、昨年においてタイの生体豚の価格がマレーシア産より高騰し、 満足がいく輸出ができなかったこと、国境近くで病気が多発し肉豚の生産率が低下 したことなどにより、養豚産業の経営状況は芳しくなく、業界の体力は弱まってお り、このためにも是が非でも複数企業による運営にするとともに、施設使用料につ いても大幅な引き下げを政府に強く求め続けている。 昨年、タイ政府は、香港に輸出したタイ産豚肉にベータ・アゴニストの残留が認 められたとして、香港政府から輸入禁止の措置を受けたことから、生産農家および 加工処理場を登録制にするなどし、衛生・品質基準を満たす努力を重ねてきた。ま た、隣国マレーシアがニパ・ウイルスなどで養豚産業が壊滅的な打撃を被ったこと により、近隣諸国では衛生水準の高い豚肉の需要が高まっている。このためにも、 完成した豚と畜場の早期稼働が求められている。
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