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【ブラッセル駐在員 池田 一樹 2月25日発】―「代償を払っても輸入禁止措 置を継続するか、あるいは禁止措置を撤回するか。」―ホルモン牛肉問題の解決期 限を目前にして、このほどEU委員会は3つの対応案を示し、EU理事会やEU議 会に至急検討するよう求めた。また、自らはこの問題で対峙する米国などと話し合 いを始めるとしている。 EUのホルモン牛肉輸入禁止措置は、昨年、世界貿易機関(WTO)で同協定違反 と裁定された。科学的に正当な根拠(危険性の評価)が無いことが理由である。 EUは、裁定理由を根拠に、調査試験を開始し、科学的な正当性の追求を最優先 する方針を採った。17件の調査試験が開始され、本年から来年にかけて結果が判 明する。一方、紛争対峙国の一つの米国は、即刻解決を求めたため、裁定をめぐる 紛争当時国の見解は全く異なるものとなった。 このため、裁定の実施に関する仲裁が行われた。この結果、EUは本年5月13日 までにWTO協定に基づいた解決を求められている。この期限は、EUが関連規則 の改正に要する期間を踏まえて決定された。調査試験期間は裁定の実施期間決定の 判断材料にはならないとされた。 今般明らかにされた対応案は、この期限をにらんで示されたものである。ただし、 あくまで調査試験結果に固執するEUの姿勢は変わっていない。したがって、いず れの対応案も、科学的に白黒がつくまでの暫定措置であると念を押している。示さ れた対応案とその評価は次の通りである。 [第1案] 輸入禁止を維持する代わりに、紛争当事国間での代償措置の交渉を実現させる (国境措置の譲許、マーケットアクセスの増加)。評価:実現すれば、相互の合意 に基づくため、EU内外での調査試験を淡々と推進することができ、十分客観的で 正確な判断ができる。代償措置は莫大な金額に上ると予想されるが、その分野は交 渉可能である(EUの禁止措置による米国などの被害額は年間2億5千万ドルとも 5億ドル(約3百億円から約6百億円:1ドル=120円)とも言われている)。 さらに、科学的根拠が明らかになれば即座に撤回できる。 [第2案] WTO協定では検疫措置が科学的根拠に乏しい場合は、現在入手できる知見に基 づいて、暫定措置を講ずることができるとされている。この規定に基づき、輸入禁 止措置を暫定措置とする。評価:恒久措置か暫定措置かの違いだけである。したが って、押し通しても、紛争対峙国の理解は得られず、新たな紛争が必至である。 [第3案] ホルモン牛肉である旨の表示を条件に、輸入を解禁する。評価:WTO協定の遵 守が一目瞭然であり、また、代償措置や譲許の停止を伴わない。しかし、潜在的に 危険と判断している製品の流通を許すこととなる。調査試験の結果次第では、解禁 の判断自体が問題となる可能性もある。さらに、紛争対峙国から異論が出ない表示 規則を設定することも困難である。 EU委員会は、対応案に優先順位をつけていない。しかし、自ら下したそれぞれ の対応案への評価からは、第1案を推進しようとする姿勢が浮き彫りとなる。 一方、米国政府は、EU委員会に対して、原産国表示を行うことを条件に輸入解 禁を求めてきており、EU−米国間の話し合いが既に始まった。ただし、今のとこ ろEU委員会は、米国案は、EUの表示に関する希望とはかけ離れているとして、 受け入れる様子は見せていない。
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