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【シンガポール駐在員 伊藤 憲一 9月16日発】タイ政府は、東南アジア諸国 連合(アセアン)が、2003年までにアセアン自由貿易地域(AFTA)で適用 となる関税を、0〜5%に引き下げるのに伴い、段階的に関税を引き下げることと している。 先般、これに先立ち15アイテムの関税の引き下げと景気刺激策をパッケージに した新景気刺激策が8月10日から実施され、15アイテムの輸入関税率は、0〜 5%の範囲に引き下げられた。 今回の引き下げは、AFTAの関税率を踏まえ、国内産業の生産性向上およびタ イ製品の輸出競争力を高めるために実施するとし、国内で生産されていないものを 中心に引き下げを行った。なお、引き下げの対象となっている農産物には、アルフ ァルファ、ルピナスなどの飼料、養殖用魚介類、肥料、植物油などが含まれている。 しかし、問題を多く含む農産物加工品、鉄鋼、石油製品などは今回の対象から除外 されている。 一方、タイ大蔵省は、これ以外の関税率について、@未加工の原材料、A半加工 品、B最終製品の3段階に区分し、それぞれの関税率を@が1%、Aが7%、Bが 15%となる平易な関税制度を定める計画である。しかし、農産物は工業製品とは 本質的に異なることから、同制度から分離して検討することとしているが、詳しい 内容については、来年早々に公表される。 これに対し、商業省は畜産農家などへの影響を考慮し、世界貿易機関(WTO) との履行期限である2004年まで、関税を引き下げるべきでないとし、政府内で も意見が分かれている。 また、WTOで合意した2004年までの関税率引き下げ義務は、食肉が現在の 45%から30%に、食肉調製品が50%から40%になっているにもかかわらず、 同期限を待たずに関税を前倒しして引き下げることに、畜産業界でも大きな疑問を 投げかけている。 飼料団体では、関税の引き下げにより米国、EUなどから直接安価な食肉などで 輸出攻撃を受けて飼料の需要が低下し、国内の畜産農家および飼料原料を生産する 農家に大きく影響するとみている。なお、農産物の関税率が低い国は、衛生基準を 強化するなど、関税以外の防波堤を築いているとしている。このため、同団体は、 シンガポールなどが輸出国に課している指定農家制度などを参考にして、タイにお いても確固たる独自の輸入基準を設けるべきと政府に提言している。 また、鶏肉業界は、現在の国内生産費、原産地価格、外国為替などが2004年 まで同じとの仮定で、WTOで合意した関税率で試算した輸入鶏肉の価格を国産価 格と比較している。99年の場合、国産価格が1s当たり58.2バーツ(1バー ツ=約2.9円)であるのに対し、米国から輸入した鶏肉は、45%の関税により 63.4バーツとなり国産を上回る価格となる。しかし、2004年の場合、米国 の鶏肉は、30%の関税により56.9バーツと国産を下回る状況となる。このた め、関税を前倒しして引き下げる影響は計り知れないとしている。 このように、業界は関税引き下げの急な動きに対し危機感を募らせており、新関 税の決定までには、かなりの曲折が予測される。
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