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【ブラッセル駐在員 島森 宏夫 3月30日発】EUは、このほど、昨年3月に 決定した共通農業政策(CAP)改革による農業および経済への影響予測分析結果 を公表した。分析を行ったのは、ドイツのボン大学、アメリカの食料農業政策研究 所(FAPRI、ミズリー大学およびアイオワ大学で分析)、オランダのアムステ ルダム大学世界食料研究センターの3機関である。 改革を行わなかった場合と比較したシミュレーション分析結果の概要は、次の通 りである。 ○牛肉 牛肉については、支持価格の引き下げに伴い市場価格が低下する一方、繁殖雌牛 奨励金の増額等により直接支払いが増加するものと見込まれる。この結果、生産は わずかに減少する一方、市場価格の低下により消費は改革を行わなかった場合と比 べ2〜3%増加し、在庫量は大きく減少すると見込まれる。これらの変化の度合い は、域内市場の管理および輸出補助金に関するEU委員会の政策に主に影響される。 ○豚肉・鶏肉 豚肉・鶏肉は、支持価格の引き下げに伴う穀物価格の低下の恩恵を受けるが、牛 肉価格の低下がこれらの消費へ影響する。飼料価格の低下、豚肉・鶏肉から牛肉へ の代替についての分析結果は、研究機関により異なるが、改革を行わなかった場合 と比べて顕著な変化は認められない。また、大半の研究では、価格低下により、特 に鶏肉の補助金無しでの輸出機会が増加すると見込まれている。 ○生乳 生乳については、クオータの増加により生産が増加するものと見込まれる。ただ し、その度合いは、現状の加盟国でのクオータを超えた生産および生乳価格の低下 が世界需給に与える影響の仮定次第で、研究機関により異なる。牛乳および乳製品 の生産増加の大半は域内消費に吸収される一方、特にチーズについて乳製品輸出が 増加すると見込まれる。しかしながら、生産が消費・輸出を上回り、主に脱脂粉乳 の在庫は増加するものと見込まれる。 ○農業所得 農業所得の伸びは、理論上の改革を行わなかった場合(しかしながら実際的には 継続困難)に比べわずかに下回るが、名目総農業所得は92〜96年と比較し11 〜12%上回ると見込まれる。また、労働単位当たりの2005年の実質農業所得 は、92〜96年と比較し16〜34%とかなり上回ると見込まれる。(研究によ り、インフレ率、農業労働力の仮定に差があり結果が異なる。) ○消費者等への影響 EUの消費者は農産物価格の低下により恩恵を受けると見込まれる。消費者等へ の恩恵の額は、EU全体で2005/6年度に約90億ユーロ(約9,000億円、 1ユーロ=100円で換算)、2006/7年度には105億ユーロ(約1兆50 0億円)に達するものと見込まれる。恩恵の度合いは、主に農産物の市場価格の変 化に影響される。一般的に言えば、その大部分は消費者が恩恵を受けるものと見込 まれるが、残りは食品・小売業界に渡り、収益性や競争力の改善に役立つものと思 われる。また、農産物価格の低下は消費者物価指数を2005年に0.25%、2 010年には0.33%引き下げるものと換算され、前向きのマクロ経済効果を生 むものと期待される。
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