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生体牛貿易摩擦の陰で肥育業界混乱(フィリピン)



【シンガポール駐在員 宮本 敏行 6月29日発】フィリピン政府は先ごろ、豪
州が衛生上の問題からフィリピン産パイナップルおよびバナナの輸入を認可しない
ことへの対抗措置として、本年から向こう5年間にわたり、豪州からの生体牛輸入
頭数を毎年、前年比で2割ずつ削減する計画を発表したところである。  
 
 フィリピンは、99年に豪州から25万3千頭の肥育素牛を輸入しており、そのうち
第1位のディールコ社が7万8千頭で全体の30.9%、第2位のデル・モンテ社が5
万1千頭で20.3%、第3位のモントレイ社が3万5千頭で13.9%を占めている。輸
入制限措置では、99年の各社の輸入実績からそれぞれ2割を削減し、本年分として
割り当てることとなっている。

 しかし、フィリピンではこの問題の陰で、生体牛輸入では最大手のディールコ社
が、輸入許可を政府から差し止められる事態が起こり、畜産業界に物議を醸してい
る。同社は国内に3ヵ所のフィードロットおよび1ヵ所のと畜加工場を持ち、6千
人以上の従業員を抱える国内最大の肥育業者でもある。同社によれば、と畜加工場
で解体された牛肉は、国内550ヵ所のウェットマーケットで販売され、飼料・肥育
部門では1千5百戸が同社の傘下で生計を立てているとしている。

 フィリピン農業省は6月6日、同社が過去6回以上にわたり、輸入許可証を偽造
して豪州産生体牛を輸入してきたとして、既に提出されている10件分の輸入許可申
請の凍結を言い渡した。農業省の発表によると、同社は今年5月から6月初旬にか
けて、1万6千頭の生体牛を虚偽の申請により豪州から輸入していた。また、農業
省は他の生体牛輸入業者にも、同社に生体牛を売り渡したとされる豪州の輸出業者
からの購入を禁じる措置を併せてとっている。

 これを不服としたディールコ社は、農業省が、エストラーダ大統領やアンガラ農
業長官と親しい企業を優遇しているとして、政府の措置について法廷で争う構えを
見せていた。  

 農業省とディールコ社によるこの係争は、マニラ市長が仲介に入り、同社が自己
の非を認めるとともに5百万ペソ(約1,300万円:1ペソ=約2.6円)の罰金を支払
うことで一応の決着を見たが、業界随一の肥育業者が引き起こした不祥事は、畜産
業界に解決すべき課題が残されたものと憂慮されている。また、今回の出来事は、
今年2月から行われている政府による豪州産生体牛のボイコット運動や、先般発表
された輸入制限措置に焦りを感じた生体牛輸入業者の「勇み足」という感も否めず、
豪州との早急な問題解決を望む声がさらに高まるものと思われる。 

 今後、両国の生体牛をめぐる問題の解決に向けた努力が期待されるところである
が、今回の不祥事のように畜産業界の未来に影を落としたフィリピンにとっては、
困難な道のりとなりそうである。


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