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肉質改良の肉牛遺伝子テストを事業化(豪州)
【シドニー駐在員 野村 俊夫 7月20日発】豪州ニューサウスウェールズ州北 部のアーミデール市にある先端遺伝子技術企業、ジーンスター社は7月6日、肉牛 の肉質、特にマーブリングの形成に影響を及ぼす遺伝子の有無とその数を判定する テストを事業として開始したと発表した。これは、同社が政府・業界による共同研 究の成果を踏まえて事業化したもので、肉牛の遺伝的素質を向上させる技術として 業界から注目されている。 今回の事業化の基礎となった研究は、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の協 力の下で豪州科学技術産業機構(CSIRO)と協同研究センター(CRC)によ って進められたもので、肉牛のマーブリングの形成に影響を及ぼす複数の遺伝子の 中から、最も影響力が大きいとみられる遺伝子(Thyroglobulin Gene)を特定する ことに成功した。 これによると、一般に、牛は、当該遺伝子を全く保有しないか、1個あるいは2 個保有している。その保有割合は牛の品種によっても異なり、一般にマーブリング が入りやすいとされている品種はその割合が高い。長期肥育向けの肉牛1,800頭で テストした結果では、1個以上保有している牛が約20%、2個保有している牛は約 4%であったと報告されている。 一方、200日間穀物肥育した牛群について仕上がりの肉質を審査したところ、当 該遺伝子を2個保有する肉牛はその他の肉牛と比べて11%の割合でマーブリングス コアの上昇が見られた。ただし、1個のみ保有する肉牛はわずかに(約1%)スコ アが向上したにとどまったと報告されている。 今回、開始された肉牛遺伝子テストは、検体となる肉牛の体毛、血液または精液 のサンプルを分析することによって、当該遺伝子の有無とその数を判定するもので あり、中でも、体毛による検査が最も簡略な方法として推奨されている。 当該事業を中心的に推進しているのは、CSIROにおいてこの研究に携わった 2名の研究者(ヘツェルおよびデービス博士)で、両博士は、その後、この成果の 利用特許を獲得し、別な家畜改良技術企業と合弁でジーンスター社を設立して事業 開始に至った。なお、1検体当たりのテスト料は88豪ドル(約5,500円:1豪ドル =約63円)とされており、CSIROとMLAに対しては、事業収入の中から特許 使用料が支払われることになっている。 両博士は、肉牛のマーブリングの形成には複数の遺伝子が複雑に絡んでおり、必 ずしも当該遺伝子によって単純に決定されるものではないとした上で、生産者がす べての肉牛をテスト・選別することはコスト的に合わないものの、当該遺伝子の保 有牛を種雄牛や供卵牛として利用することにより、牛群全体の遺伝的素質を向上さ せることが可能だと述べている。 また、両博士は、次の研究対象として、牛肉の柔らかさや歩留まりに影響を及ぼ す遺伝子の解明などを掲げており、近い将来、この面からも業界の発展に貢献した いとしている。先端遺伝子技術の利用は、今後も注目を集めそうだ。
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