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フィリピン、米国産鶏肉の輸入規制続行の動き
【シンガポール駐在員 宮本 敏行 7月20日発】フィリピンの米国産鶏肉の輸 入規制をめぐり、両国政府の攻防が表面化し始めている。 フィリピンのアンガラ農業長官は7月6日、エストラーダ大統領にあてた書簡の 中で、過去2年にわたる安価な米国産鶏肉の輸入急増が、国内の養鶏産業に悪影響 を及ぼしているとして、今年後半も引き続き鶏肉の輸入規制を継続すべきと進言し た。また、併せて、今年4月以降、政府の努力により無分別な輸入が抑制されつつ あるとし、7月下旬に米国訪問を控えている同大統領に、鶏肉産業保護路線の堅持 を訴えている。 米国からの鶏肉輸入は、従来のロシア向けがフィリピンに振り向けられたことな どから、98年は前年比で約2倍となり、99年には同じく約20倍に急増した。米国か ら輸入される鶏肉は「もも肉」および「手羽」で、これらは「むね肉」が好まれる 米国では需要が低い。したがって、むね肉に利益を転嫁できる米国は、比較的優位 にこれら低需要部位の輸出価格の設定ができるとされる。フィリピン農業省の発表 によると、米国産鶏部分肉の輸入価格は1kg当たり25.83ペソ(約67円:1ペソ= 約2.6円)で、フィリピン国内における農家販売価格53.17ペソ(約138円)の半分 以下となっている。今年第1四半期も輸入増加の傾向が続いており、前年同期比で 132%増の輸入が行われ、農業省では神経をとがらせていた。 そこで、アンガラ農業長官は、3月下旬の声明で輸入検疫許可証を「丸どり」の みに限り与えるとし、事実上の輸入制限に踏み切った。この結果、第2四半期の輸 入量は前年同期比で22%の減少となり、1〜6月の合計でも7,019トンと、今年の ミニマムアクセス数量(MAV)の37%という低水準にとどまっている。 また、アンガラ長官は過去の輸入急増を踏まえ、セーフガード法の成立を目指し て議会に働きかけており、7月17日から始まる特別国会では、下院での法案通過が 予想されている。さらに同長官は、安価な米国産鶏部分肉が、フィリピン国内の養 鶏産業に大きな打撃を与えることになれば、米国はトウモロコシや大豆かす、生産 資材など年間3億6千万ドル(約389億円:1ドル=約108円)の市場を失うことに なるだろうと警告している。 こうしたフィリピンの措置に対し、米国のグリックマン農務長官は5月26日、フ ィリピン政府にあてた書簡で、世界貿易機関(WTO)の理念に反する行為として 同政府を痛烈に批判し、「理不尽な」輸入規制措置に正面から対決する構えを見せ ている。 フィリピンでは養鶏産業に3万人以上、トウモロコシ産業に50万人以上が従事し ているとされ、安価な鶏肉の大量流入がこれらの産業に与える影響は、決して小さ いものではない。アンガラ農業長官は7月中旬、グリックマン農務長官およびバシ ェフスキー米通商代表部代表に、米国産鶏肉に対する輸入規制の継続を明言したと 伝えられており、大統領の米国訪問時に白熱した議論が繰り広げられることは間違 いない。会談の行方に注目したい。
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